12

【イベントレポート】トッププレイヤーの思考とは

InsideSalesPlus 編集部2024/11/18
twitter

本記事は2020年に実施された「Inside Sales Conference 2020」でのセッションを株式会社Bizhint様の許可を得て記事化したものです。インサイドセールスは常に新しい挑戦と変化が求められる仕事であり、その変化や挑戦にあるストレスやプレッシャーとどう向き合うのか。そのヒントになるポイントがたくさんありますので、ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思います。

InsideSalesPlusの編集部です。X(旧Twitter)で日々の新着記事やおすすめ記事を投稿していますのでぜひフォローをお願いします!

イベント登壇者


プロ格闘技選手 青木真也さん

修斗ミドル級チャンピオン。DREAM、ONEライト級チャンピオン。日本における総合格闘技の先駆者として15年以上現役選手として国内外のリングに上がり続ける。現在はアジア最大の格闘技団体ONE CHANPIONSHIPのメイン選手として活躍。アベマTVの人気番組「格闘代理戦争」ではメインキャストだけではなく制作チームのプランナー的な役割も果たす。またプロレスラーとしてもDDTを主戦場に活動中。執筆、講演、コメンテーターなど文化人としての活動も多方面で展開。著書に『ストロング本能』『空気を読んではいけない』など。座右の銘は「おれたちはファミリーだ!!」


元メジャーリーガー 小林雅英さん

日本体育大学、社会人野球を経て1998年ドラフト1位で千葉ロッテマリーンズへ入団。2年目から抑えのエースとして活躍。33試合連続セーブポイントや6日目で6セーブなどのプロ野球記録を樹立した。2005年広島東洋カープ戦において通算150セーブ達成。リーグ3位でプレーオフに進出し西武ライオンズ、福岡ソフトバンクを撃破し日本シリーズに進出、セ・リーグの代表阪神タイガースに4連勝で日本一というプレーオフ制度導入後初の優勝に大きく貢献する。千葉ロッテで9年間プレーした後、MLBクリーブランドインディアンズと契約。2年間主に中継ぎとして活躍。帰国後は巨人、オリックスでプレーし2011年に現役引退。


恐怖心はなくならない、怖いのは積み重ねていないこと


ーまずはじめに恐怖心について伺っていきたいと思います。格闘技は当たりどころが悪ければということもあると思います。その恐怖心とどう付き合っていますか?


青木さん:恐怖はなくならないものだと思っています。結局、格闘技で死ぬことってほとんどなくて、それくらいボクシングでも総合格闘技でも安全性が担保されているんです。しかし、存在をかけている。それは格闘技でも、プロ野球でもビジネスパーソンの日々の仕事やプレゼンひとつでも同じだと思っていて、そういう意味では恐怖はずっとなくなることはありません。

ーなるほど、存在をかけているというのは青木さんを見ていてもそう思います。ではその存在、立場を失う恐怖についてはいかがですか?


青木さん:自分がなにか賭けた分だけ返ってくるのは正常な世界です。何も賭けない、何もリスクを負わないで何かを得ることはできない。それが理解できないと踏み出すことはできないと思っています。

ーよく理解できました、ありがとうございます。とはいえ踏み出す恐怖に負けてしまう人が多いと思います。それについてはいかがですか?


青木さん:挑戦をする、というと聞こえがいいし多くのビジネス本が「挑戦する」というテーマで書かれていますが、実際は「押し出されている」という側面もあると思うんです。試合が先に決まって、当日が近づいてくることで押し出されるということもある。だから挑戦する決断って実はそこまで多く無い気がしています。

ー環境や流れに身を任せる、ということですか?


青木さん:はい。目の前のことをコツコツやる以外には無いんだと思います。それが最終的に大きな挑戦につながっていく、自分自身はそういった経験がほとんどですね。

ーなるほど。コツコツやっているうちに目の前に大きな挑戦がやってきて、これまでの実績や経験を持って向き合っていく、ということでしょうか?


青木さん:そうです、日々目の前のことをコツコツやって準備しておかないといざというときに打てない。そういった積み重ねていない恐怖の方が大きいです


ーありがとうございます。小林さんにもお伺いしてみたいのですが、選手時代は怖いことが多かったのではないですか?


小林さん:野球に関しては無かったですね。打たれて怖い、そういったことを考えてしまうとボールを投げることが出来なくなってしまうので。野球が楽しい、打者を抑えて楽しい、その気持ちをずっと大切にしてきました。それだけは失ってはいけないと思っていました。

ー挑戦にはストレスがつきものだと思います。とくに小林さんはクローザー(試合の最後に登板して勝ちを確定させる役割)ということでストレスがとても大きかったのではないですか?


小林さん:無責任にマウンドに立っていた、それが私なりのストレスの克服方法です。チームの勝ち、先発ピッチャーの勝ちなど、自分の立場にかかるストレス、責任感を自分で大きくし過ぎてしまうとその場に立てないと思っていました。若かったのもありますが、「監督が指名したから登板する。決めたのは監督。」くらいの気持ちでいました。青木さんが先程おっしゃっていた「押し出される」という感覚に近いかもしれません。

それを続けていく中で責任感を少しづつ醸成していけば良いと思います。そしてその中で責任感を大きくするだけではなくて、誰かのためというモチベーションを作っていくことが大切だなと思っています。例えば誰かの復帰のお祝い、裏方さん(トレーナーや用具、練習の相手など)の誕生日にウイニングボールを渡すということをやっていました。

ーそれでも少しずつストレスが溜まっていく、ということもあるかと思います。とくにクローザーが失敗するとニュースでもそれがフォーカスされることもありますよね。その辺りはいかがですか?


小林さん:それは野球にまったく携わっていない知人の言葉で救われた部分もあります。「失敗がこれだけニュースになる人は、日本中探してもそうはいないよ?」と言っていただいて少し考え方が変わりました。また、失敗がそれだけ新聞やニュースになるのは普段失敗していないからだと自信にもなりました。

失敗は「もっと先がある」という次へのモチベーション


ー小林さんのお話を聞いていて、「失敗の原因を考える」ということが重要なのかなと思ったのですがいかがでしょうか?


小林さん:失敗しない人間はいないと思っています。毎回成功することほど面白くないものはありません。むしろ失敗することで「もっと先がある」「もっとうまくなれる」というモチベーションになると思っています。その失敗を次にどうつなげるかが重要で、その日のうちに「配球だったのか、フォームだったのか、コンディションだったのか」という原因を究明して、次の登板時には克服している、対応策が決まっている状態まで持っていくことが必要になります。


ーありがとうございます。失敗をそのままにせず、具体的な課題として捉えていくことが重要ですね。青木さんはいかがですか?試合前のストレスは相当大きいと思うのですが。


青木さん:ストレスから開放される瞬間が気持ちいい、それが本音です。だからこそ、ストレスがかかっている状況からの開放、それを知っているからロジカルに捉えることができているのだと思います。サウナと水風呂に例えるとわかりやすくて、練習や試合前のストレスはサウナに入っている状態。試合後の開放が水風呂なんですよね。だから一定のストレスはかけた方がいいんです。

また、その人の器を超えたストレスはかからないようになっているんです。自分で選択してストレスをかけているので。つまり乗り越えられるストレスしかかからないので、ぜひ前向きに捉えて挑んでほしいと思います。

ーこれが挑戦し続ける人のメンタリティなんですよね。ぜひ皆さんもストレスを前向きに捉えてほしいと思います。そこで質問なのですが、相手を完全にコントロールできない。青木さんは著書でもこう書かれていますがこれについてはいかがでしょうか?


青木さん:僕が一番言っているのはジャッジ、審判です。どんなスポーツでも「ジャッジがおかしい」と言われることがあると思います。でもそれを言ったらダメなんです。人は変えられないし、人が作ったものは不完全なんです。それでもその中で勝った人間が正しいという自分の中の理屈があって、人を変えるよりもまずは自分が変わった方がいい。

ジャッジが文句を言えないような試合運びをするとか、他人(ひと)に勝負を預けないとよく言うんですが、他責にしないことが重要なんです。

失敗の許容範囲を作ることで思考をコントロールする


ーありがとうございます。他責にしないということは我々の世界でもよく言われることですが、相手に試合を預けない。これは新しい考え方だと思います。小林さんもバッター、打者という相手がいる競技ですが共通点はいかがでしょうか?


小林さん:自分でコントロールできない部分があるというのはそうだと思います。その中で失敗の許容範囲を作るということをやっています。もちろん、想定通りに打者を打ち取ったときの気持ち良さもありますが、そううまくいくことばかりではありません。思い通りにならなかったときに「どうしようどうしよう」と慌てること、思考を止めてしまうことがパフォーマンスを低下させてしまいます。

例えば「1点までは取られてもOK」「ノーアウト2塁まではOK」といった許容範囲を設定しておくことで、それ以下の状況で慌てることがかなり減ります。ベストケースだけを想像するというのは、相手もプロである以上リスクを大きくすると思います。

ー完璧をイメージしすぎると良くない、ということでしょうか?完璧に抑えなくても、点を取られても勝つこともあると思います。勝つ、をゴールにしてプロセスは複数パターン想定しておくというイメージでしょうか?


小林さん:そうですね、点差や相手のベンチの情報を頭に入れて複数のシュミレーションをしていきます。1点差の場面でホームランを打たれたら同点、しかし攻めた結果フォアボールでの出塁はOK。フォアボールがダメだ、ということではなくてイニング全体でコントロールしていく。こういった思考の余裕、失敗の許容範囲を持てるかどうかでパフォーマンスは大きく変わってきます。

ーつまり想定の範囲や攻めた結果のフォアボールなら良いということですね。青木さんはよく過程×成果の組み合わせで思考されていますが、同じようなイメージですよね?



青木さん:これは若い選手にも良く言っていることです。図の通りなんですが、過程が良くても結果が出ないこともあって、これは君は悪くないよねという話になります。ただ一番良くないのは「悪い過程×良い結果」のときに幸運ではなくて実力と勘違いしてしまうことなんです。

失敗のときはそこからやり直すこともできますし、振り返ることができるんですが、幸運で勘違いでしまうと努力をやめてしまうことがある。そうならないように過程を振り返ることは重要なことです。

ー結果はわかりやすいと思いますが、過程の良し悪しはどう判断されていますか?


青木さん:データも取ってますが、手帳にも多くの情報を書き込みます。そして試行錯誤の中でどうなったかをしっかり振り返っています。そして、最近は自分の試合をどのくらい見てもらえたのかもわかるようになってます。こうやって様々なことがデータでわかるようになっていますから、目を背けさえしなければしっかり過程を振り返れるんです。

ー小林さんはどうですか?同じように良い過程を経てきたので、この結果は不運であったと捉えていることで整理している、ということはありますか?


小林さん:近い考え方だと思います。相手がいるので結果はコントロールできないですし、条件もコントロールできないので。その中で成果を出していく、そこが野球の面白いところですよね。

ーありがとうございます。一方でその結果をどう消化していくか、これも重要だと思うのですが青木さんいかがですか?例えば負けてしまった、とはいえ過程は良かったなという場合など。


青木さん:もちろん負けてしまったということは悪いところがあった。ただ良いところはここだったな、で終わるようにしています。多くの人が逆で終わってしまう。良いところもあったけど、負けてしまったな、と。そうではなくて、良いところがあったのだから次はもっとできるはずだとポジティブな気持ちで終わってほしいと思います。

年齢と共にスタイルを変えていく、そしてビジネスパーソンもアスリート化する


ー少し話を変えていきたいのですが、パフォーマンスを維持するためにしていること、ルーティンなどあれば教えてください。



青木さん:常に良い状態、8割くらいの状態を保っていくことが重要だと思っています。若いときはたくさんの負荷をかけて、ハイパフォーマンスができる高い山を作るのが良いと思いますが、年齢を重ねると回復力を含めて戻りづらくなる。だからいまは谷を作らない、抜く時間を作らないことでパフォーマンスを一定に保つことを意識しています。

小林さん:100%のパフォーマンスは長続きしないんです。80-90%のパフォーマンスを維持することができればある程度打者を抑えられるので、長い期間80%以下を作らないということを意識していました。そこは共通点だと思います。

ー年齢による体の変化はいかがですか?やはり年齢を重ねることで変わってきたことも多くあるのではないかなと思うのですが。


小林さん:年々変わってくるもので、とくに回復力は圧倒的に違います。ですから年齢を重ねてからの方がルーティンや定点チェックが重要で、私の場合は朝起きたときにコンディションを確認する、そして登板があってもなくても1日の最後にマッサージしてリセットする。こういったことの継続が晩年の成果を支えたと思っています。

青木さん:肉体を鍛えれば数値は上がっていきます。ベンチプレスなどはわかりやすいですよね。ただ、反応は違います。早い動き、リズムについていけなくなるというのが典型的です。そこに関しては自分のプレースタイル、ファイトスタイルを変えることで対応していきます。

最近面白いなと思っているのは、すべての業界でアスリート化が進んでいるということ。朝まで飲んで遊んでという武勇伝が語られなくなっていて、常に良いコンディションを整えることが求められている。特にビジネスパーソンはアスリート化が進んでいると思います。

小林さん:いまの若い野球選手でもそうですね。お酒の場でのコミュニケーションは減っていると思います。その代わり、それ以外のコミュニケーションが増えていて、データとして取れるものも増えましたし、サポートも手厚くなってきているのでそこを活かせるかどうかは成果に直結すると思います。

ー年齢に合わせてスタイルを変えるというのはビジネスパーソンにも言えることですね。ありがとうございました。話は変わりますが、目をかける若手、育てたくなる若手、成長する若手はどんな人ですか?


青木さん:その人の熱量、熱意の形が自分と近いかどうかを大切にしています。自分が一生懸命だとしても、相手より熱量が少なければそれでは足りない。相手に教えてください、あなたは私の師匠ですと言う必要はないですが、その人のことをよく観察し、なにをしていてどのくらいの熱量なのか、しっかり把握する必要はあると思います。

小林さん:成長するかどうかは熱量ですね。そのことに対してしっかりと自分の考え方を持つこと、持ちながらも相手の教えを吸収できること。さらに重要なのは相手の言ったことを真に受けることだけではなくて、それもひとつの考え方として冷静に捉えることができるかどうか。野球はこれまで100年以上の歴史があっても4割打つ打者はいないし、100%勝てた投手もいない。だからこそ正解がないものと捉えて思考し続けることが成長には必要だと考えています。

変化することは前提で自身も毎日違う。そして、生き残ったものが強い。


ーそんな中で自分自身も成長、変化が必要だと思います。実績があればあるほど変化に対するストレスが強そうですが、その辺りはいかがでしょうか?


青木さん:変化していくことが前提。相手が対応してくるのは当たり前だし、自分も進化していくのはもちろん必要。そうやって競技が進化していくし、格闘技自体が景気に左右されやすいものでもある。団体がなくなってしまうこともある。だからこそ生き残ったものが強い、という言葉もしっくりきます。

小林さん:変化は当たり前ですし、自分自身も毎日違う。そしてデータ化されたものも増えた。そこに加えて洞察力や観察眼も大切。そういった状況も踏まえて、常にその時、その時で判断していくことが重要。相手も自分に対応してくる、打てなければ変えてくる、そういった前提を頭の中に入れておくだけでも違ってくると思います。

ーお二人の話をお伺いしていると、目標が明確で、思考が柔軟で常に考えている印象を受けるのですが、思考が止まってしまう瞬間はありませんか?


青木さん:多々ありますよ。でもそのときが腕の見せどころなんです。だからこそ型(パターン)で覚えないようにしています。そうではなくてその意味を理解するようにしている。型の意味を理解していれば様々な状況に対応することができるので、暗記するなと周りの選手にも伝えています。

小林さん:2005年のプレーオフ、あとアウト3つを取れば31年ぶりのリーグ優勝という場面で登板したときに4点差を追いつかれてしまい、結果その試合は負けてしまったということがありました。普段であれば「どうしようではなく、こうしよう」と考えていて、結果がどうなっても学びは残るのですが、そのときは「どうしよう」となってしまっていたと思います。

年間40-50試合くらい登板していたのですが、年末に振り返ろうと思えばだいたいのことは思い出せるのですが、その試合のことはまったく覚えていないんです。だからあの試合の最大のミスは、配球やフォームもあるんですが「思考を止めてしまったこと」なんです。

ー日々これだけ鍛錬して、思考して、失敗の許容範囲まで作っている小林さんでもそうなってしまう。これは対策することはできないのでしょうか?


小林さん:人間が作るものなので完璧はありませんし、優勝という経験でいえばチーム全体も私もありませんでした。経験のないことを対策することはかなり難しいと思います。そういった意味でも経験がとても貴重なので、成功失敗にこだわらずに挑戦して経験をしてほしいと思います。


ーここまでありがとうございました。それでは最後に一言お願いします!


青木さん:生きていると辛いことがたくさんあると思います。生きていれば辛いことがあるという事実に観念して向き合ってコツコツやり続けるしかないんです。でも、その先には良いことがあって、それは辛いことが多くあればあるほど嬉しい気持ちに変わるので、前向きに挑戦していってほしいと思います。

小林さん:「どうしようではなく、こうしよう」という前向きな思考があれば、すべての経験が自分の履歴になります。そして失敗は次へのモチベーションになります。必ず失敗はするものと捉えて、じゃあ次に取り返そうという気持ちが成功につながると思っています。100点は失敗しないことではなく、進み続けることです。

最後に


最前線で挑戦し続けてきたお二人に共通していたのは、失敗はあたり前という考え方。そして、がむしゃらに挑戦するだけではなく、深い思考によるメンタルのコントロール力の高さに学ぶべきポイントが多くあるように感じました。変化の多い時代だからこそ、挑戦と思考を繰り返し、日々を積み上げることが豊かに暮らす秘訣なのかもしれません。

この記事でなにか学びがあった、という方はぜひその学びをSNSなどでシェアしていただき、視点と意見の交換をすることで学びを深めていってください。また、今後もアスリートからの学びをシェアしていきたいと考えていますので、人や内容に希望がある方はこちらからご意見をいただければ幸いです。


※本記事はBizhint様のご協力で公開しています。

©︎2024 InsideSales Plus Inc.