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生成AI活用の成否を分ける「データ基盤」とは? 営業準備を根底から変える新常識

源栄 公平 | インフォマート2025/10/14
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本記事では、営業準備をテーマに「なぜ従来の準備方法では限界があるのか」「生成AIと信頼できるデータ基盤を組み合わせた、新しい営業準備の進め方」について具体例を交えながら解説していきます。日々の情報収集や仮説構築に課題を感じている営業担当者の方や、チーム全体の準備の質を標準化し、成果を最大化したいマネージャーの方々のヒントになる内容となっておりますので、最後までお読みいただけますと幸いです。

株式会社インフォマート 部長。大手通販会社に新卒入社し、個人営業職からキャリアをスタート。その後、営業企画室長、営業部長を歴任。2010年インフォマートに中途入社。Beauty Infomart 事業の新規立ち上げを経験。また、社内初のインサイドセールス部門の立ち上げ及び組織運営に従事。現在は、業界チャネルのプロダクト統括を兼務。

1. はじめに|営業準備は「差別化の源泉」

「商談前に調べた顧客情報のレベルが、そのまま成約率に影響する――」
大げさに聞こえるかもしれませんが、今の顧客は営業担当者の準備の丁寧さや理解度を瞬時に見抜きます。準備不足の商談は、契約チャンスを逃すだけでなく、信頼関係まで損なう恐れがあります。
 
このため、営業担当者にとって商談前の準備はもはや単なる作業ではなく、競合との差を生み出す重要な武器となります。訪問機会が限られる場合、一度の商談で顧客への深い理解を示せるかどうかが成功の鍵を握ります。
 
この記事では、「生成AI」と当社インフォマートが提供する「BtoBプラットフォーム業界チャネル」を組み合わせることを例に、スピードと精度を両立させる新しい営業準備のあり方をご紹介します。時間をかけずに質の高い準備を行う仕組みを構築すれば、商談力は格段に向上します。
 

2. 営業準備における従来の課題

準備にかかる時間の増大
商談前に企業情報や業界情報を収集し、提案の仮説を立てることは営業活動の基本です。特に、提供するソリューションが顧客の業務内容や課題によって大きく変わるBtoB領域では、商材の提供価値が企業の業務内容や課題によって変わる場合、商談ごとに最適な提案ストーリーを構築する必要があります。
 
しかし、必要な情報はWeb上に分散しており、整理するだけでも相当な時間がかかります。例えば、ある業務支援ツールを提案する際、対象企業の事業規模や現状の運用フロー、過去のシステム導入事例、担当者の役割までを把握しようとすると、複数のWebサイトやニュースリリース、過去事例を横断して確認する必要があります。従来の準備のやり方では、1社あたり数時間かかることも珍しくありません。
 
さらに、情報収集の質は担当者のスキルに大きく依存します。ベテラン営業は効率的に情報を整理できますが、新人は適切な検索キーワードの選定や情報の優先順位付けに苦労し、多くの時間を費やしてしまいます。結果として、商談直前に断片的な情報だけで臨まざるを得ないケースも少なくありません。この準備の質の差が、そのまま商談成果や受注確度に直結してしまうのです。
 
情報の信頼性に不安
Web上の情報は便利ですが、営業活動では情報の正確性や鮮度が極めて重要です。契約条件や運用状況、業界動向は変化が速く、1週間前の情報ですら、すでに過去のものとなっている可能性があります。
例えば、企業の業務フローや課題を誤った前提で提案すると、「自社のことを理解していない」と顧客に受け取られる可能性があります。さらに、業界特有の動向や企業固有の課題は外部から把握するのが難しく、経験豊富な営業担当者でも情報の正確性に不安を抱えながら商談に臨むケースは少なくありません。訪問商談では、顧客が「最新の業界ニュース」や「競合動向」に敏感に反応することも多く、古い情報で臨むと即座に信頼を損なうリスクがあります。
 
属人化と再現性の欠如
営業準備のスキルは担当者によって大きく差が出ます。特に、導入後の効果や業務改善を具体的にイメージさせる「ストーリー型提案」を行う場合、経験や業界知識の差が成果に直結します。
ベテラン営業は過去事例や業界の傾向をもとに仮説を立て、スムーズに商談を進められます。しかし、経験の浅いメンバーは同じ情報に触れても仮説作りに時間がかかり、商談の質も安定しません。その結果、組織全体における成果の再現性は低くなり、属人化が慢性化します。
 
個人の能力に依存した準備方法では、スピードと質を両立しにくく、チーム全体のパフォーマンスや新人教育、組織拡大の妨げにもなります。

3. デジタル(生成AI)活用による営業準備の進化

 
生成AIがもたらす可能性
ここで登場するのが生成AIです。営業現場の情報整理や分析作業を、一気に効率化してくれます。例えば、以下のようなことが可能になります。
 

  1. 膨大な情報の短時間処理:従来、数時間かけて行っていたニュースやプレスリリースの精査が、AIなら数分(場合によっては数秒)で完了します。これにより、営業担当者は情報収集ではなく「思考」に時間を使うことができます。
  2. 仮説立案の高速化:AIは複数の情報を統合し、初期的な仮説や提案を自動生成できます。質問リストや商談用シナリオのたたき台を作ることも可能です。
  3. 営業活動の標準化・知見の共有:チーム全体に同じレベルの情報や分析結果を届けられるのでため、個人差の少ない仮説立案が可能。新人でもベテランに近い視点を持つことができます。

 
ポイント:生成AIは「情報整理・初期分析」の爆速化が得意ですが、あくまで仮説の「種」を作る役割と捉えることが重要です。
 
生成AIの限界と課題
とはいえ、生成AIだけで営業準備を完璧にするのは困難です。実用においては、以下の課題を理解しておく必要があります。
 

  1. 情報源の不透明性:AIはさまざまな情報を参照して答えを出しますが、出典や正確性を明示できない場合があります。根拠の曖昧な仮説で商談に臨むと、信頼を損ねるリスクがあります。
  2. 業界・企業固有の知識不足:業界特有の用語や慣習、企業固有の課題はAIだけでは十分に理解できません。業界構造の変化や競合関係、企業文化や過去の取り組みまでを把握するのは困難です。
  3. 最新情報への反映が不安定:AIの学習データや更新タイミングによって、直近のニュースやトレンドが反映されないことがあります。鮮度が命の商談で活用するには、人の手によるリアルタイムでの確認も必要です。
  4. アウトプットの質はインプットに依存:AIが生成する仮説の精度は、入力される情報(プロンプト)の質に大きく左右されます。また古い情報や誤ったデータを使うと、精度の低い提案になってしまいます。そのため、正確で信頼できるデータ基盤が前提となります。

 
営業現場での示唆
結局のところ、生成AIは「情報整理・初期仮説生成」において強力な武器になりますが、最終的に商談の成否を分けるレベルの精度の高い仮説を作る際は、人間の知見と正確なデータが必要です。
 
正しい営業準備を行うには、「AIによる効率化」+「人間による検証・補完」の二層構造が現実的です。正確で網羅的な業界・企業情報という土台があって初めて、AIの能力を最大限に引き出し、商談に勝つための仮説を構築できるのです。
 
ポイント:生成AIは強力なツールですが、「正確なデータ基盤 × 人間の営業知見」が揃わなければ、成果には繋がりにくくなります。

4. 「正確なデータ基盤」の必要性

データの正確性が商談の信頼性を左右する
営業現場では、顧客は準備の質を非常にシビアに評価します。ちょっとした事実誤認や業界理解の甘さは「この営業は本当に自社を理解しているのか?」と疑われ、商談の温度感を下げてしまいます。
 逆に、正確で最新のデータに基づいた仮説や提案は、「この担当者なら信頼できる」と評価されます。つまり、商談の成否は、事前準備の際にどれだけ質の高い情報にアクセスできているかにかかっていると言えます。
 AIは情報を「生成」するだけで、正確性や鮮度は保証してくれません。AIの出力をそのまま使うと、事実誤認や根拠薄弱な提案に繋がるリスクがあります。だからこそ、大事なのは「AIをどう使うか?」ではなく、「どのようなデータをAIに与えるか?」だと言えます。
  
信頼できるデータ基盤が担う役割
そこで鍵となるのが、企業や業界に関する信頼性の高い情報を、構造化された形で提供する専門の企業情報・業界情報データ分析サービスの利用です。こうしたサービスを活用することによって、営業活動に不可欠な情報をとらえることが可能になります。
 
一例として、当社の提供する 「BtoBプラットフォーム業界チャネル」 では 以下のようなデータをご活用いただけます。

  • 業界別レポート:業界構造・市場動向・プレイヤーの特徴を体系的に把握

 

  • 企業ダッシュボード:取引先やターゲット企業の最新情報・経営課題を即時確認


  •  AIだけでは補えない精度と根拠

正確なデータ基盤を持つ事で、営業担当者は「何を聞くべきか」「どのような課題が想定されるか」を精度高く考える事が可能になります。要するに、AI活用の前提となるデータの信頼性を業界チャネルが担保するので、AI × データ基盤 × 営業知見の三位一体で戦略的な商談準備が実現します。
 
結果として、準備時間は削減され、創出された時間を顧客理解という「思考」に投資できるようになります。単なる効率化ではなく、商談の質を上げ、受注率にも直結する戦略的な営業の武器となります。

5. 生成AI × データ基盤サービス(ex.業界チャネル)による新しい営業準備

新しいプロセスの全体像
従来、営業準備は「情報収集→仮説立案→提案準備」という流れで進められてきました。しかし、近年は情報の氾濫と複雑化が進み、1回の商談準備に平均で1〜2時間かかるという調査結果もあります。営業担当者の時間を最も奪っているのは、膨大なWeb検索・ホワイトペーパー読解・競合調査といった「情報探索」の部分です。
 
ここでも注目すべきが、データ基盤サービスと生成AIの組み合わせです。
例えば「業界チャネル」 は、特定業界のニュース・レポート・統計・規制情報を網羅し、体系的に蓄積するデータ基盤です。一方、生成AIは、この膨大なデータを意味的に要約し、ストーリー化する力を持っています。
新しい営業準備プロセスは、次の3ステップで構成されます。

Step 1. データ基盤(ex.「業界チャネル」 )から正しいデータを収集

  • 業界動向、競合の動き、規制・制度変更、最新のトレンド情報を体系的に取得
  • 情報の信頼性は業界専門メディアや公的データで担保
  • 複数業界にまたがる顧客には、クロス業界での比較データも抽出可能


 例)「建設業界の労務費比率の上昇」と「不動産業界の人材確保難」をクロス分析し、顧客が抱える可能性の高い人件費リスクを特定。
 ポイント:

  •  Google検索や属人的な社内ノウハウではなく、統一された業界知識基盤を活用


Step 2. 生成AIで要約・仮説シナリオ化

  •  収集データを自然言語で要約
  • 「この企業が抱える可能性の高い課題」や「意思決定の観点」をAIが仮説立て
  • 商談で聞くべき質問リスト、提案ストーリーのドラフトを自動生成

 
例)「過去3年間の決算データから粗利率が低下傾向にある」とAIが要約 → 「御社の原価管理の課題」として商談の切り口を提示。
 ポイント:

  • 情報」から「仮説」への変換をAIが担当
  • 営業担当者はゼロから考える負担を軽減し、戦略的準備に集中


Step 3. 営業担当が人間の視点で磨き込み

  •  AIが提示した仮説に対し、自社商材の特徴・顧客の過去履歴・担当者の経験を加味
  • 顧客特性(社風・意思決定スピード・導入ハードル)に沿ったストーリーを再構成
  • 「AI任せ」ではなく、人間力による最後の仕上げで提案の説得力を担保

 
例)AIが提示した「全社導入プラン」を、その企業の「導入ハードルが高い文化」を考慮して「支店パイロット導入プラン」に修正
ポイント:

  • AIが導いた仮説を、自社の強みや顧客特性に合わせて最適化
  • 人間の経験、洞察による最後の仕上げが、提案の説得力と信頼性を高める


従来との比較
図解1:営業準備プロセス比較

このプロセスで解決できる営業課題(まとめ)
課題①:準備時間の長期化:AIによる情報整理の自動化で、担当者は提案に集中
課題②:属人化:信頼できるデータ基盤を活用し、AIが初期仮説を生成することで知識を全員へ共有しやすい状態に
課題③:仮説の浅さ:膨大な業界データから構造的な因果関係を抽出し、仮説精度を向上

6. 営業の未来像

訪問価値の最大化へのシフト
営業の現場では、「訪問数」より訪問1回あたりの深さが成果を左右します。AIと信頼できるデータ基盤を組み合わせることで、限られた訪問機会を最大限に活用することが可能です。
従来モデル(量の追求)

  • 大量のリストへのアプローチとアポイント獲得数がKPI。
  •  顧客理解が浅いため、ヒアリングが表面的になりがち。
  • 「数撃てば当たる」式の活動は現場を疲弊させ、顧客体験も損なう。


新モデル(質の追求)

  • データ基盤の活用で事前に顧客業界の文脈を深く理解。
  • AIが生成した仮説シナリオを手に、初回商談から核心に迫る議論を展開。
  • 営業の価値は「アポ獲得」から深い議論を実現し「顧客課題の解明」へとシフトする。


この変化により、1回の商談で得られる情報量と信頼が飛躍的に向上し、結果的に受注率も高まります。営業担当者は「数のプレッシャー」から解放され、より戦略的な活動に集中できるようになるのです。

学習する営業組織
今後、営業準備のプロセスが「組織の財産」に変わります。
従来、優秀な営業担当者の知見は個人の「暗黙知」にとどまり、組織内での共有や再現は困難でした。
 
生成AIとデータ基盤を活用した新しいプロセスでは、

  • 業界別の商談準備フローが標準化
  •  AIが作成する仮説や質問リストは、次の商談準備にも再利用が可能
  • 商談結果(ヒアリングの深さ、顧客反応)は、AI学習データとして蓄積

これにより、1回の準備が次の準備をより賢くする循環 が生まれます。
さらに、学習は個人だけにとどまらず、組織全体を進化 させます。

  • 商談ログやフィードバックを分析し、AIが「成功パターン」を抽出
  • 組織全体にベストプラクティスを自動配信
  • 新人営業でも、AIによる提案の叩き台があることで即戦力化が可能に

つまり、営業は属人的なアートから、データドリブンなサイエンスへと変貌をとげます。ただし、最後の意思決定やストーリーテリングは人間の領域であり、人間力を増幅させるテクノロジー活用こそが、この未来像の本質です。

最終的なゴール:「営業の役割再定義」
この変化の先にあるのは、営業の役割が「商品を売る人」から「顧客の事業課題を解決し、 未来を共にデザインするパートナー」に進化することにあります。

  •  AIが情報を整え、仮説を提示
  • 人間が信頼関係を築き、文脈を読み解く
  • 組織がデータで学び続ける

この三位一体のモデルによって、営業組織は量的拡大のゲームから脱却し、少数精鋭でも高付加価値を創出できる組織へ移行できます。

7. まとめ|営業準備の未来は「AI × データ × 人間力」

営業の現場は、これまで「経験と勘」に依存し、情報収集や仮説立案に膨大な時間を費やしてきました。しかし、情報があふれ、顧客の期待値が高まる現代では、従来の方法では「スピードと精度」を両立できません。
 
本記事でお伝えした通り、

  1.  生成AIは膨大な情報を要約・仮説化する力を持ち
  2. データ基盤サービスは正確で信頼できるデータを提供し
  3. 営業担当者は、人間ならではの文脈理解と信頼構築で仕上げる

この3要素を組み合わせることで、営業準備は単なる作業から「差別化の武器」に進化します。

この変革は、単なる効率化にとどまりません。営業活動は「量」から「質」へと完全にシフトし、営業担当者の役割は顧客の未来をデザインするパートナーへと再定義されます。
営業の未来像は、「AIを活用した高速・高精度な準備」と「人間力を最大限に引き出す提案力」の両立にあります。
 
この変革を実現できるかどうかは、正確なデータ基盤とAIの賢い活用、そして現場のマインドセットにかかっています。はじめの一歩は、「どこから取り組むか?」を決めることです。
 
まずは、データ基盤サービスとAIを組み合わせた新しい営業準備プロセスを、1つの小さなチームで実験することから始めてみてください。そこから得られる学びが、営業組織を未来に向けて進化させる第一歩になるはずです。
 
わたしたちも一緒にお手伝いいたします、データ基盤サービス「BtoBプラットフォーム業界チャネル」にご興味をお持ちいただけましたらこちらからご相談ください。

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