株式会社TANREN 代表取締役CEO 佐藤 勝彦(以下、佐藤氏)
既存のEラーニングのみの教育ではアウトプットが完遂できないことを課題とし、2014年10月TANREN株式会社で起業。アウトプット教育を軸にしたパフォーマンス評価アプリとして評価を集め、2016年には日本e-Learning大賞で経済産業大臣賞など受賞、営業/販売教育専門のソリューションとしてTANRENの企画・設計・開発を手掛ける。
AIを活用することで入り口の購買体験は良くなる
-佐藤さんはセールス分野でもChatGPTを中心としたAI活用を布教されていると思いますが、インサイドセールスの活用についてはどうお考えでしょうか。
佐藤氏
「インサイドセールスの活用によって、生産性は飛躍的に向上すると考えています。セールスの起点であり、最初のアポイントを獲得することはどんな企業でも直面する問題です。いまも昔もその難易度は高く、注力して工数をかけると時間がかかってしまって件数が増やせない。この構造的な問題をAIを使うことで解決することができると考えています。
例えばインサイドセールスのトッププレイヤーの方の行動をプロンプトで定義し、実行すれば、その人と同じようなメールやCxOレター、トークスクリプトが完成します。SNSを検索してコメントを差し込む、IRやニュースリリースを確認して訴求内容を生成するということができる可能性もあり、それを短時間で実行できれば生産性は上がると考えています。」
-ありがとうございます。それはお客様にとってはどんな体験になると思いますか?
佐藤氏
「これまでより良いものになると考えています。私自身、これまで多くのアウトバウンドコールを受けてきましたし、そういったメールを受け取った経験も多数あります。その内容が素晴らしいものは前向きに検討することになり、それは最終的に自社の利益になることなので歓迎すべきことです。また、もし検討に至らない、成約に至らない場合でも気づきがあったり、知らない情報を得ることができますので個人的にはとてもポジティブです。
しかし、問題はその体験がごく一部であり、多くが個別にカスタマイズされていない内容ということです。そういったアプローチは受ける側の体験も良くないですし、成功確率が低いのでその分多くの方に負の体験を作っている事実があります。それがAIによって高品質なものが増えるということになれば、購買体験が良くなるのは当然と言えるのではないでしょうか。」
少しの課金で成果が圧倒的に変わる可能性がある
-AIが素晴らしい成果をもたらす可能性がある一方で、悲観的な意見があることも事実だと思いますがそれについてはどうお考えでしょうか?
佐藤氏
「もちろんAIも万能ではありませんが、まずは徹底的に研究してみることをオススメしていますし、それだけの価値があると思っています。例えばChatGPTでいうなら、GPT3や3.5と4は圧倒的にその精度が違います。正直、3.5をセールスに活用するのは不可能に近い。
実際に無料の3.5で実験してみたが使いものにならなかった、という方が同様の条件を4で実行して感動したという事例もあります。それほど少しの差で大きく成果が変わるものは近年ありませんでした。それについては思考を切り替える必要があると思っています。」
-そこまで違うともはや別物として考える方が正しいのかもしれませんね。しかし、それも佐藤さんのような方がいればこそですが、近しい人や社内に有識者がいない場合はいかがでしょうか?
佐藤氏
「外部のプロフェッショナルに助けを求めるのが良いと思います。私のように個人に近い人格で発信、支援している人もいますし、インサイドセールスでいえば代行してくれるベンダーさんがいると思います。彼らはすでにAI活用を視野に調査、実験を繰り返ししていると聞いています。
もし内製のインサイドセールスチームがあったとしても、一部を委託することでその効果や方法を体感することに価値はとてもあると思います。実際に私にもそういった相談が多く寄せられています。自社だけで完結することはこれから益々少なくなるので、ぜひ外部リソースの活用を視野に入れていただきたいです。」
外部パートナーの力で商談が増えすぎる未来はくるのか
-インサイドセールスがAIを活用した場合、全体的に商談が増えていくと思うのですが、それによって引き起こされるネガティブな事象はありますか?
佐藤氏
「基本的にはないと思っています。しかし、注意しなければいけないのは”解決できる課題 < 獲得できる商談”となってしまう可能性です。AIは目的を商談の獲得にセットすればそれを追求します。そしてその企業に腕の良いセールス、インサイドセールスが在籍する場合、その効果は絶大で、多くの商談が創出されることになりますが、場合によって受注確度の低い商談割合が増える可能性を加味しなければなりません。
ですから受注までのプロセスをしっかりと設計し、もしそういったことが起こった場合に、どう検知して、どう対処するのかを事前に決めておく必要があると考えます。その前提を持った状態でAIを活用する、プロンプトをカスタマイズしていく必要があります。」
-なるほど、たしかにこれまでは人員リソースの問題、能力の問題である程度バランスされたものが一気に成果がでることで崩れる可能性がありますね。自社の場合であればそれを制御することが可能ですが、外部パートナーに頼った場合、制御が難しいのではないでしょうか?それは、商談が不足しているという問題を、商談が受注しないというように問題を先送りすることになりませんか?
佐藤氏
「可能性として否定はできないと思います。一部のベンダーがAIをフル活用し、大量の商談を量産することは可能ですし、ビジネスである以上そこから逃れることは難しいかもしれません。しかし、そういった環境が発生して問題が受注に移ることになれば、自然と受注率の高い商談を供給できるベンダーが選ばれていくからです。
ですから私がそういった相談を受けた際には、長期的な成功には正しい意識が必要であり、普段の行動や学習によって身につけた技能や知識、すなわち素養がこれからは一層重要になるとお伝えしています。」
AIを活用するのは売り手か、買い手か
-売り手がAIを使って高度なセールスやマーケティングを実行する中で、買い手はどのように購買を進めていけば良いのでしょうか?
佐藤氏
「買い手がAIを使っているかどうか、それはこちらもAIを使えば判定することは可能です。しかし、それがAIで生成されているのか、人間が書いているのかは重要ではありません。その届いた情報に価値があるか、そのベンダーと付き合うべきか否かの判断にこそAIを活用すべきです。
現代のB2Bは売り手も複雑ですが、それ以上に買い手が苦労しています。社内外の変化が激しく、新しいものが次々に生み出されては消えていく。そんな中で本当に自社に必要なツールを見つけ、検討し、利用していくには時間が足りません。ですから買い手こそAIなどのテクノロジーを味方につけていくことが重要だと考えてます。」
-買い手がAIを活用する未来はどのような未来でしょうか?
佐藤氏
「まず時間が圧倒的に圧縮できます。購買における多くの時間が情報収集と社内説明にあてられていますが、AIを活用することでその多くの時間を圧縮することができます。例えば『◯◯の製品を提案するために必要な要素を書き出して』『社内の経営陣を説得するために必要な情報を教えて』『◯◯の費用対応効果を算出して』などの指示を出せば、あっという間に社内説明資料の雛形ができあがります。
そこで生み出された時間をツールの運用や定着に投資し、成果を出すことができればその方の評価もきっと上がっていくはずです。これまでは売り手が高い評価や給与を得ていたかもしれませんが、近い将来、いまよりももっと買い手が重要視されるかもしれません。」
最後に
-ここまでありがとうございました。これまでよりも具体的に未来をイメージできたような気がします。最後になにかメッセージがあればお願いします。
佐藤氏
「インサイドセールスは非常に高度な仕事だと思っていますが、数字や期日のプレッシャーから、すべての行動にこだわることができなかったかもしれません。しかし、これからはAIを活用することでもっとお客様一人ひとりにフォーカスしたアクションが可能になります。
それは決して楽をするため、手を抜くため、ということではなく、よりクオリティの高い仕事をするためであり、より良い購買体験を生み出すことは最終的に自社の利益として返ってきます。また、そういった活用ができる人材はきっと社会から求められ評価を上げるはずです。
ですから新しいテクノロジーへの挑戦と、お客様に最高の体験を提供するという2つを両立させることを目指してほしいと思います。また、参考まで今回のテーマに沿ったプロンプトを公開しますのでぜひ参考にしてみください。」
佐藤氏によると、人類の言葉はとても曖昧であり、その結果正確な成果物が得られないとのことです。そこで、NewsPicks等で取り上げられている「ゴールシークプロンプト」を使いこなすことで、インサイドセールスにおけるメールの生成精度は格段に向上するとのことです。
こちらは「インサイドセールスにおける潜在顧客に最初の接触メールを作成してください」という一文を、プロンプトエンジニアリングの技でリライトしていただいたものです。以下のプロンプトを実行し、GPT-4と対話することで精度の高いメールが作れるというデモになります。
Prompt:
成果物
このプロンプトの目的は、潜在的な顧客に向けて最初の接触メールを作成することです。このメールはプロフェッショナルであり、顧客の関心を引き、我々の製品またはサービスに対する彼らの興味を刺激します。
前提条件
潜在顧客の情報(名前、彼らが関心を持つ可能性のある製品またはサービスなど)が必要です。
我々の製品またはサービスについての詳細知識。
コンテンツの詳細
以下の部分から成るメールを作成します:
グリーティング(顧客の名前を使用)
自己紹介
製品またはサービスの紹介
顧客が製品またはサービスに興味を持つ可能性のある理由
追加情報を得るための指示
クロージングと連絡先情報
変数の定義とこのコンテンツのゴール設定
以下の変数を定義します:
{client_name}: 潜在的な顧客の名前
{product_or_service}: 我々の製品またはサービス
ゴールを達成するためのステップ
以下のステップを実行して最初の接触メールを作成します:
グリーティングを作成:「Dear {client_name},」
自己紹介を作成:「My name is [Your Name] and I am from [Your Company].」
製品またはサービスの紹介を作成:「We offer {product_or_service}...」
顧客が製品またはサービスに興味を持つ可能性のある理由を提供:「Based on your interest in [relevant field], our {product_or_service} can...」
追加情報を得るための指示を提供:「If you are interested in learning more, please feel free to reply to this email or visit our website at [website link].」
クロージングと連絡先情報を提供:「Thank you for your time. Best regards, [Your Name, Your Contact Information]」
手順の実行プロセス
上記のステップを使用して、以下のような接触メールのドラフトを作成します:
#以下よりドラフト
Dear {client_name},
My name is [Your Name] and I am from [Your Company]. We offer {product_or_service} that we believe may interest you.
Based on your interest in [relevant field], our {product_or_service} can provide you with [benefits of product/service].
If you are interested in learning more, please feel free to reply to this email or visit our website at [website link].
Thank you for your time.
Best regards,
[Your Name]
[Your Contact Information]
#ここまでドラフト
ユーザへの確認事項
このメールが潜在的な顧客の関心を引き、彼らに我々の製品またはサービスについて詳しく調べるよう奨励するように、必要に応じてメールの内容を調整してください。
フィードバックループ
フィードバックを受け取ったら、それを使用してメールのドラフトを改善します。必要に応じて手順を繰り返します。
成果物の生成
最終的な接触メールのドラフトが完成したら、それを成果物として出力します。
↑
上記の内容を理解したラ処理して実行してください
まずは手順にしたがって私に質問することからスタートしてください。
これにより生成されたメールがこちら
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最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。今回はインサイドセールスが何を目的にAIを活用するのか、非常に示唆に富んだお話をお伺いしました。次回はまた別の切り口でインタビューを続けて参りますので、どうぞお楽しみに。