ISがアポを取れば取るほど、FSの受注数が減る逆転現象が起きる理由
弊社ではISチームが立ち上がった当初、目標指標を「アポ設定数」に定め、デイリーでアクション数、進捗を追いかけていました。その結果、四半期の目標は大幅に達成し、ISチームでは最高に盛り上がっていました。ところが、沢山のアポイントを取れていたにもかかわらず、その後の受注数およびNew MRR(新規の月次あたりサブスクリプション売上)が想定よりも伸び悩んでしまう現実に直面しました。
この現象が起きてしまった理由として「ISがきちんと見極めを行わず、確度の低いリードを大量にトスアップしていたこと」に尽きると振り返っています。
当時のISチームの指標は「アポ設定数」のみに置いていました。その結果、ISはアポをできる限り多く獲るために「先方ニーズ、予算有無にかかわらずアポを取る」「トークスクリプトを固めて一方的に会話する」といった行動が増えました。
その結果、確度の低いリードを数多くフィールドセールス(以下、FS)にトスアップ。FSのリソースが逼迫し、最終的な受注数が伸び悩んでしまったのです。
ISチームがアポ設定時にやめてみた3つのこと
こうした結果を受けて、ISで無理やりアポを取ることを思い切ってやめることにしました。具体的には、以下の3つのことをやめています。
①アポ設定数だけを追うのをやめる
②初回架電でのアポ設定をやめる
③トークスクリプトの共有をやめる
下記で、一つずつ説明していきます。
①アポ設定数だけを追うのをやめる
以前はISチームのKPIである「アポ設定数」だけを追っていたことで、ISチーム内の個別最適が進み、事業全体にとって最適な状態から乖離してしまいました。そのため、ISとしてもアポ設定数だけでなく、その先の有効商談率、案件数、成約数までウォッチして「受注につながる商談設定」をゴールとする意識をチーム全体に浸透させていきました。
事業の立ち上げ間もない時期は、様々な検証のためにアポ設定数を目標におくことも重要だと思います。実際弊社でも、その時期があったらからこそ最適な条件や行動が設定できるようになりました。
見極めるポイントは「アポ設定数の伸び率と受注率や売上の伸び率が比例していない状況」や「ISは目標達成しているが売上が未達になっている」という歪みやねじれが発生しているかどうかです。逆にいえばそこまではアポ設定数をしっかり追いかけた方が良いかもしれません。
②初回架電でのアポ設定をやめる
従来のISチームでは「初回架電でいかに効率よくアポ設定するか」を追求していたのですが、リードの質を高めるために初回架電でのアポ設定をとりにいくことはやめました。
本来、サービスへの関心があるお客様はWebサイトなどで直接問い合わせをしているはずですので、ウェビナー、展示会、アウトバウンドコール経由のリードは、弊社サービスへの興味がまだ高まっていない前提に立ってアプローチをした方がいいと考え、複数回にわたるアプローチで温度感を高めるのが有効なのではないか?という仮説をもとに、体制を変更しています。
*例外的にインバウンド(問い合わせ)は初回架電でアポ設定をゴールに定めています。
初回架電のゴールは「お役立ち資料の送付」に置き、現状の施策や状況の深堀り、顕在・潜在課題のヒアリングに専念します。そして、2回目以降の架電のゴールを「アポ設定」におき、初回でヒアリングした課題に刺さるトークや業界事例を準備した上で相手の温度感を高める動きを取るようにしました。
複数回に分けたアプローチを行うメリットは、以下の2つです。
1点目は、初回架電ではヒアリングに専念することで導入検討のタイミングや、予算、ニーズなど先方の状況を把握できます。その把握した状態で営業にトスアップできているので、FSの商談で提案が刺さりやすくなったこと。
2点目は、従来のやり方では熱量を高めきれていなかったリードからのアポも設定できるようになってきたことです。1回目の架電でアポを狙うことで、検討確度の低いお客様にはネガティブな体験をさせることになり、じっくり向き合っていればアポ獲得できた可能性のあるお客様を逃してしまっていました。また、IS自身もそのリアクションから「お客様は課題がない」「検討確度が低い」と判断していました。
お客様の興味関心、検討確度に応じ対応を行い、2回目、3回目に同業他社の事例、業界に合わせたコンテンツを練り上げた上でトークができるので、興味を持ってもらえる確率が高まったと手応えを感じています。
③トークスクリプトをやめる
今まで作り込んでいたトークスクリプトの共有もやめました。トークスクリプトを作り込むと、ISメンバーはどうしても型どおりの一方的なトークに終始しがちです。そうではなく、きちんとお客様一人ひとりと会話のキャッチボールをする意識をもってもらうために、現在はフロントトークと架電時ヒアリング事項の共有にとどめています。
その後、アポ獲得に至らなかった場合は、ヒアリングの内容からリードクオリフィケーション(お客様の検討確度の見極め)を行った上で、後追いの優先順位をつけて活動しています。
トークスクリプトをやめるのは勇気が入りますし、トレーニングも複雑になりますが、アポ設定数ではなく、有効商談率やその先の指標を追っていく場合、トークスクリプト通りでは実現することはできません。なぜなら多くの場合、トークスクリプトはアポ設定がゴールになっており、今回のような初回はアポ設定を目標にしないというフローとは相性が悪く、その分岐をすべて作り込んで記憶するのは逆に難易度が高くなってしまうからです。
無理なアポ取りをやめてみた結果
上記3つのことをやめてみた結果は以下の通りです。
・有効商談率が前年同期比20%以上伸びた
・New MRRが前年同期比で大きく伸長した
・副次的な効果として、ISメンバーのモチベーションに繋がった
初回架電での強引なアポ設定をやめた結果、有効商談の設定率を前年同期比で20%以上も伸ばすことができました。前述の通り「問い合わせ以外の検討確度の低いリード」からの商談が増えていることも考えると、単純に母数が変化というだけではなく、本当に最適なアポを供給できている、ISが介在価値を高く発揮していることの証明だと考えています。
また、成約確度の高いアポをFSに繋げられるようになった結果New MRRも大きく伸長しています。アポの精度が上がり、FSに時間ができたことでより商談の準備や、後追いに時間を割けるようになったことも要因のひとつだと思います。
その他、副次的な効果として一方的なトークをやめて対話重視のアプローチに移行したことでISメンバーがトークに創意工夫を凝らすようになり、スキル向上やモチベーションアップに繋がりました。具体的には、お客様のビジネスや現在の状況に興味を持つようになったことで、より高いレベルの話をお客様とすることができますし、興味を持っていただくための仮説準備など、メンバーのスキルアップを感じています。
最後に
今回の経験を通じて、ISの役割をフィールドセールスのパイプラインの創出にきちんと置く重要性を改めて感じました。アポを取るのではなく、お客様との価値合意に向かい、会話のキャッチボールを行いながらアプローチを行うことで、以前と比べて質の高いリードを生むことができるようになりました。
また、FSの生産性だけではなく、アポ獲得率やそこからの売上転換率が低ければマーケティング全体のROIを下げることにもなります。ISはそれだけ大きな責任を背負っている部門だとあらためて強く認識をあらためました。
まだまだ発展途上で改善点が数多くあるので、今後も事例を共有できればと思っています。今回はお読みいただきありがとうございました。