【登壇者】
松本 健太郎氏(株式会社グロースX 執行役員)
法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で学び直し。 その後、デジタルマーケティング、消費者インサイト等の業務に携わり、現在はグロースXにてマーケティングとコンテンツを担当している。政治、経済、文化など、さまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とし、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌にも登場している。著書に 「誤解だらけの人工知能」(光文社)、 「人は悪魔に熱狂する」(毎日新聞出版)など
茂野 明彦(株式会社インサイドセールスプラス 代表取締役)
2012年、株式会社セールスフォース・ドットコムに⼊社。 グローバルで初のインサイドセールス企画トレーニング部⾨を⽴ち上げると同時に、 アジア太平洋地域のトレーニング体制構築⽀援を実施。2016年、株式会社ビズリーチ⼊社。インサイドセールス部⾨の⽴ち上げ、ビジネスマーケティング部部⻑、営業責任者を歴任。2022年、株式会社インサイドセールスプラスを創業。著書に「インサイドセールス–訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド-(翔泳社)」
「THE MODEL」型組織の要を担うインサイドセールス
皆さん、こんにちは。茂野と申します。本日は、事業の成長に寄与する本質的なインサイドセールスについてお話ししたいと思います。
私はこれまで、セールスフォース・ドットコムやビズリーチといった会社で、インサイドセールスに長く携わってきました。2022年には、インサイドセールスに特化したメディアの運営などを行うインサイドセールスプラスを創業。現在はその代表を務めながら、ベンダーさんやBPOのパートナーさんのアドバイザーなども務めています。
さて、近年は「THE MODEL」の考え方が広まり、リードの獲得から商談までのプロセスを分業することが一般的になっています。これはまさに、各部門で最適化したものを次に受け継いでいきながら全体の生産性を上げていく、効率化を極めた工場モデルだと考えています。
その中で、インサイドセールスチームは中間部門として存在し、マーケティングが獲得したリードの見込み情報を、商談という形にしてセールスに渡していく役割を持っています。
インサイドセールスを用いたこの工場モデルは、どのようにすれば生産性を向上したり、売上への貢献度を高めたりすることができるのでしょうか。
今回は、次の3つの視点をご共有できればと思います。
インサイドセールスの活動は「直進性」が重要
まず、インサイドセールスの日々の業務において重要なのが「直進性」です。直進性とは、下図の「A」のように、計画通りもしくは計画を前倒ししながら数字を達成していくこと。つまり、「B」のように月末最終日に一気に達成するのではダメです。
なぜなら、商談の発生が月末に集中してしまうと必要な商談時間が確保できず、営業の目標を達成することができなくなってしまうからです。
もちろん、インサイドセールスが月末に数字を達成することは素晴らしいのですが、本当に評価したいのは、この直進性です。つまり、日次や週次でコンスタントに数字を生み出せているかが重要なのです。
直進性を担保するためのポイントは「商談の中身」です。
下図は、インサイドセールス担当のAさん・Bさん・Cさんの商談創出数を示しています。縦軸が商談創出数で、AさんとBさんは目標を達成した状態、Cさんは未達の状態となっています。
「当月」や「前月」といった色分けはリード見込み情報が発生した時期を表していて、「当月」は当月に発生したリード、「前月」は前月に発生したリードであることを示しています。
結論から言うと、この中で最も理想的な状態にあるのはAさんです。当月自社に問い合わせがあった人から数件の商談獲得をしており、さらに前月や前々月、3カ月前、4カ月前のリードからの商談獲得も積み上がっています。
一方のBさんは、当月からの商談獲得は非常に多いものの、前々月よりも前のリードからは獲得できていません。この結果からわかるのは、Bさんは長期的な関係構築ができていない可能性があるということ。そのため、発生するリード数が多い月であれば目標を達成できますが、少ない月であれば厳しいといったように、成果が直近のリードの数に左右されてしまいます。
見込みの高いリードは、毎月コンスタントに入ってくるとは限りません。それでも安定的に成果を出すためには、それぞれのお客様の状況に合わせて、たとえば「今はお客様が繁忙期で忙しいから来月であれば話を聞いてくださるかもしれない」「今は見込みが低いかもしれないけれど、いずれ受注の見込みはありそうだ」「お客様の課題に対する提案ができれば、温度感が上がりそうだな」のように考え、アプローチし続けることが重要です。
Aさんのようにリード発生時期が5階層程度に積み上がっているのが、理想的な状態と言えます。そして、そうした人が多ければ、安定的に目標達成ができるチームになります。
AさんとBさんの例から言えるのは、目標達成を手放しで喜ぶのではなく、その成果がどこからつくられているものなのか、月による振れ幅はないのかといったことを見るべきだということです。
商談化したリードの発生時期が過去5カ月以上に分かれていれば、架電先が潤沢にあるということです。また、コンテンツやイベントの活用が多く、積極的でもあるのでしょう。
ちなみにCさんは、長期的な関係構築やナーチャリングはできているものの、当月からの獲得があまりできていないため、ここに改善点があると言えるでしょう。
インサイドセールスは「活動の面積」で評価する
インサイドセールスの評価について、また別の面から見てみましょう。
AさんとBさんが、どちらも「3000回の行動」をしたとします。その内訳が、Aさんは「30社に対してそれぞれ100回の行動」、Bさんは「100社に対してそれぞれ30回の行動」だとしたら、同じ3000回でもその意味合いは全く異なります(注:大手企業を除いて、生み出される商談は大抵の場合が1社につき1件であることを前提としています)。
なぜなら、Aさんはどんなに多くても30社の商談しか創出することができませんが、Bさんは最大100社の商談を創出することができるからです。
こうした見方を、私は「活動の面積」と呼んでいます。つまり、単純に毎日何件架電できているかを評価するのではなく、その面積の形を見て、期待最大値を評価する必要があるのです。
もしきちんと活動しているのに成果がなかなか上がらないようであれば、このような視点で見直すと変化があるかもしれません。コールリストが少なくなってくると、どうしてもすでに関係値のあるお客様や、電話がつながりやすいお客様に架電しがちになります。
情報の少ないお客様にはほぼコールドコール、つまり通常のアウトバウンド営業になってしまうため、架電しづらいというのが人間の心理です。ですから、このような定量的な評価を行う必要があります。
視聴者からの質問と回答
Q.長期的にリードを管理して、商談すべきときに商談を獲得することが大事だとわかりました。この場合、KPI設定はどのようにするのがいいのでしょうか。
A.日次と週次で目標を設定するといいと思います。KPIはやはり商談数。商談数が増えれば、受注は増えます。また、商談をコンスタントに生み出すためには、架電数やメール送信数などのアクション数で測れる行動量と商談獲得率の2つを見ていくのが重要です。
インサイドセールスは「ストック型」の個人・組織である
安定的に成果を出すためには、それぞれのお客様の状況に合わせてアプローチし続けることが重要というお話しをしました。では、すぐには商談につながらないリードと、どうすれば長期的な関係構築ができるようになるのでしょうか。
シンプルに言えば、自分が買い手の立場になったときに、これをされたら嬉しいと思う行動を実践することです。お客様はさまざまな人から情報を受け取るので、その中でも「この人から提供される情報は有意義である」と認識されることが非常に重要です。
そのために大切にすべきは、次の3点です。
1つ目は、お客様にとって必要な情報が何かを確認することです。
どうしても自分たちが伝えたいことばかりを伝えてしまいがちなのですが、ぜひお客様に「なぜ今回情報収集をしようと思ったのですか」と聞いてみてください。それによって、その人個人が困って問い合わせをしたのか、組織の課題を解決したいと思ってコンテンツに興味を持ったのか、上長や経営陣から指示を受けて情報収集をしているのかがわかります。それを踏まえると、すべき対応が大きく変わります。
その人個人として困っているのであれば、たとえば「業務が煩雑で工数がかかりすぎている」など、1プレイヤーとしての課題を解決できる情報を提供すべきです。
経営や上長からの指示で情報収集しているのであれば、「費用対効果はどうなのか」「経営がどのように変わるのか」「組織をどう改革できるのか」といった情報や事例を提供すると良いでしょう。
こうした的確なコミュニケーションによって、関係を積み上げていくことができるのです。
2つ目は、次回のコミュニケーションスケジュールを提示することです。
たとえば電話を掛けたときに、その場で相手の時間が取れなかったとします。その際、「また改めてご連絡します」と言うだけでなく、「では、資料をお送りしますので、お読みいただいたあとに再度ご連絡できればと思いますが、来週の水曜日はいかがでしょうか」といった形で、次回のコミュニケーションスケジュールを提示するようにします。
日にちだけでなく、できれば時間も約束しておきたいところです。そうすれば、「再度ご連絡したけれど不在で、もう一度連絡するのは気まずい」という思いをしなくて済みますし、お客様側も「不在時にたくさん連絡が来ていて困る」ということがなくなります。
ご連絡したものの、まだ検討時期ではないという場合は、「検討を開始される○○頃に再度ご連絡させていただきます」と言えば、その後ストレスなくご連絡できます。
ほかにも、セミナーに興味を持ってくださったお客様であれば、「セミナー終了後に再度ご案内させていただいてもよろしいでしょうか。ご多忙で不参加だった場合は当日の資料もご用意できますので」といった約束もできます。
こうした細かい積み重ねを、すべてのお客様に対してできているインサイドセールスは、いつ誰にどのようにご連絡をするという行動予定のリストが溜まっているので、「架電先がない」という状態には陥りません。そのリストがあるかどうかを確認するだけでも、自社のインサイドセールスの中身がわかるのではないかと思います。
3つ目は、常にワーストケースを想定することです。
多くのインサイドセールスは、「ご連絡したら相手方につながる」「尋ねたら課題がある」「その課題解決のために自社商品・サービスを提案できる」というベストケースだけをイメージして架電やメール送付を行っています。
しかし、実はリードの80%はワーストケース。そもそも電話がつながらない、信頼されていないので課題を教えてくださらない、課題は聞けたけれど自社では解決できない、情報収集段階でニーズが顕在化していない……といった状況で、その場では商談機会の獲得に至らないことがほとんどです。
ですから、事前にそうした展開を想定し、対策をすべきです。たとえば、ニーズが顕在化していないなら同じ業界の事例をお送りしてイメージしていただく。ご不在であれば、リードが入ってきた時間に再度ご連絡してみる。想定される課題に合わせて複数パターンの資料を用意しておく。それをすぐに送れるようにメールのフォーマットをつくっておく。こうした準備をしておくことで、次のご連絡のきっかけをつくれるようになります。
インサイドセールスは、ストック型の個人や組織を指す言葉です。お客様の情報や関係値、信頼を積み上げていって、どのように最終的な成果につなげるかが重要です。途中で切れる、失うということがない限り、1ミリでも前進させることができれば、いつかは商談獲得というゴールにたどり着きます。
視聴者からの質問と回答
Q.セミナー参加後に架電して「どのような背景からご参加くださったのですか」と聞いても、「勉強のためです」といった一言で終わってしまう場合があります。ここからどのように深堀りすればいいのでしょうか。
A.セミナーに限らず全般的に言えるのですが、見込みの高いリードか否かで聞き方を分けたほうがいいと思います。たとえば、資料請求や商品・サービスのトライアル、少人数制のセミナーなどを希望されるお客様は、検討確度が高い傾向にあるので、背景をストレートに聞けば良いでしょう。
ただ、大人数が参加するウェビナーやホワイトペーパー、他社サイトからのコンバージョンなどは検討確度が低い傾向にあるので、先に仮説を投げることが大切です。たとえば、「御社の状況であれば、こういうところに課題を感じてご参加いただけたのではないかと思いますが、いかがでしょうか」といった具合です。
仮説は、具体的であることが望ましいですが、「当たる」必要はありません。あくまでもお客様に信頼していただいて、話を深めるための取っ掛かりとして考えてもらえればと思います。