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インサイドセールスを「シグナルを生み出す存在」として再定義する

平野 紀仁 | RECERO2026/2/12

MAが高度化しても商談が伸びないのは、ツールではなく“燃料”となる行動ログ(シグナル)が市場で生まれにくくなったからです。 本記事は、ISをMAの後工程ではなく、架電で顧客の意識を動かし検索・閲覧・開封などのシグナルを能動的に生み出す「Signal Generation IS」と再定義し、MAとの役割分担・KPI設計・負のシグナル管理まで示します。 MAが効かずISが疲弊している責任者、マーケ連携を再設計したい方、アポ数偏重から評価と運用を見直したいチームにおすすめです。

投資用不動産売買やIT企業での営業を経て、2024年にRECERO株式会社にジョイン。インサイドセールス代行サービス「セルメイト」のプロジェクトマネージャーとして、クライアントのIS組織設計・運用支援を担当。業務効率化担当として従事。

インサイドセールスという仕事は、時として孤独です。

The Model(ザ・モデル)型の分業体制が普及して久しいですが、MA(マーケティングオートメーション)ツールが弾き出したスコアや、マーケティング部門から渡される「温まっていない」リストに疲弊している責任者の方は少なくありません。

  「MAを入れたのに、成果が頭打ちだ」
  「IS(インサイドセールス)は、マーケが取りこぼしたリードの受け皿(後工程)になっていないか?」

もし、あなたがそう感じているのなら、それはMAが悪いわけでも、使い方が間違っているわけでもありません。MAが本来の力を発揮するための「前提条件」が、今の市場環境では揃いにくくなっていることに原因があります。

この記事では、BtoBインサイドセールスの現場に入り込み、数々の組織設計を行ってきた実務の視点から、「 Signal Generation 」という概念を提示します。これは、インサイドセールスがMAと連携し、MAの成果を最大化するためのシグナルを能動的に生み出す存在になるという考え方です。

MAを活かすも殺すも、シグナルの供給次第。そして、そのシグナルを生み出せるのは、インサイドセールスです。少し長い記事になりますが、明日からのチーム設計、あるいはマーケティング部門との対話にて何か参考になれば幸いです。

MAが高度化しているのに、なぜ成果が伸び悩むのか

近年、MAは驚くべき進化を遂げました。スコアリングロジックは緻密になり、シナリオ設計の柔軟性も高まっています。これらのツールは本当に優秀です。正しく使えば、マーケティングとセールスの連携を劇的に効率化してくれます。
しかし、現場の感覚はどうでしょうか。ツールは賢くなったはずなのに、商談数は比例して伸びていない。あるいは、ISメンバーが架電するリストの質は一向に上がらない。
むしろ、大量の「スコアだけ高いが、ニーズがない」リードに忙殺されている ーそんな閉塞感を感じていないでしょうか。

多くの企業がここで陥る罠があります。それは、「もっとセグメントを細かくしよう」「メールのABテストを繰り返そう」と、ツールの設定画面の中だけで解決策を探してしまうことです。しかし、問題の本質はツールの設定にはありません。
問題は、「MAが本来の力を発揮するための『シグナル(行動ログ)』が、今の市場環境では十分に供給されていない」という点にあります。MAは優秀です。しかし、動かすには燃料が必要です。その燃料こそが「シグナル」であり、シグナルの供給が不足しているとき、どれだけ高性能なMAでも力を発揮できません。

MAの力を引き出すために必要なもの

従来のMAが得意とする勝ちパターンは明確です。「顧客が自分からWebサイトを訪れ、資料をダウンロードし、メールをクリックする」。この一連の「行動ログ(シグナル)」をトリガーにして、適切なタイミングでアプローチする。これが教科書的なMAの成功法則でした。
MAはこのパターンにおいて、圧倒的な威力を発揮します。人間では追いきれない大量のシグナルを検知し、適切なタイミングで適切なコンテンツを届ける。この自動化の恩恵は計り知れません。しかし、現代のBtoB購買プロセスにおいて、この前提が揃いにくくなっています。

MAが得意な領域と、苦手な領域
MAは「シグナルが発生した後」の処理において無類の強さを発揮します。しかし、シグナルが発生する前の領域は、MAの守備範囲外です。これはMAの欠点ではなく、MAが担う役割の範囲の問題です。

「シグナル」が生まれにくい市場環境
情報過多の時代、顧客は賢くなりました。課題があっても、安易に資料請求しない(営業電話がかかってくるのを知っているから)。比較検討は、ログが残らない「ダークソーシャル(SlackやLINEでの知人への相談、社内の口コミなど)」で済ませる。自社の課題が何かわかっておらず、検索キーワードすら持っていない。
つまり、市場の大部分を占める「潜在層」や「準顕在層」は、デジタル上のシグナルを残しにくくなっています。MAという高性能なエンジンを持っていても、そこに投入する「シグナル」という燃料が十分に供給されなければ、エンジンは本来の性能を発揮できません。
ここで重要なのは、「MAが悪い」のではなく、「MAに燃料を供給する仕組みが必要」ということです。マーケティング部門がどれだけ優れたコンテンツを作っても、顧客がシグナルを出してくれなければMAは動けません。この「シグナルの供給」という課題を解決することで、MAは本来の力を発揮できるようになります。

視点転換:その「シグナル」は誰が作っているのか?

ここで少し、現場の解像度を上げてみましょう。
インサイドセールス(IS)の動きを観察すると、面白いことに気づきます。彼らが「良い架電」をした直後、何が起きているかをご存知でしょうか?
電話で顧客の潜在的な課題を言語化し、気づきを与える。電話を切った後、顧客は教えられたキーワードで検索を行う。自社サイトを閲覧し、事例ページを回遊する。数日後、送られてきたメールを開封する。
MAが検知している「検索」「閲覧」「開封」というシグナルは、自然発生したものではありません。インサイドセールスの架電という「介入」があったからこそ、生まれたシグナルなのです。
従来、「Webでのシグナル(原因)→ ISの架電(結果)」という順序が正解だとされてきました。しかし、シグナルが取れない現代においては、「ISの架電(原因)→ 顧客の意識変容 → シグナルの発生(結果)」という逆転現象こそが、勝ち筋になりつつあります。
こう考えると、インサイドセールスを「MAの後工程」「受け皿」と捉えること自体が、ナンセンスだということが分かります。彼らは後工程どころか、MAを動かすための「シグナル」を生成している存在なのです。

Signal Generation ISとは何か

ここで、本記事の核となる概念を明確にします。
Signal Generation IS(シグナル・ジェネレーション・インサイドセールス)とは、単なる架電部隊ではありません。MAを稼働させるための「シグナル」を市場から能動的に生成する、新しいインサイドセールスのあり方です。
MAを「ツール」としてではなく、「概念」として再定義してください。MAの目的が、「顧客の状態に合わせて、適切な情報を届け、態度変容を促し、次のステップへ自動的に進めること」だとすれば、その自動化を駆動させるシグナルを誰が作っているのかが重要です。
人間が行う「シグナル生成」の威力
Signal Generation ISの担当者の脳内では、高度なMA以上の複雑な処理が、リアルタイムで走っています。
トリガー:顧客の「声のトーンが下がった」(ツールでは検知不能)
条件分岐:
 予算への懸念が見えたら → 事例Aを引き合いにROIを示す
 競合との比較検討中なら → 差別化ポイントBを提示する
 時期尚早と判断したら → お役立ち情報Cの送付許可をもらい、ナーチャリングリストへ移動
アクション:その場で適切な情報をアウトプットする

これを「営業センス」という言葉で片付けてはいけません。これは「音声と文脈をデータソースとした、シグナルのリアルタイム生成」です。
デジタルツールとしてのMAは、クリックや閲覧といった「過去のシグナル」しかトリガーにできません。しかし、Signal Generation ISは、「未来の期待」や「瞬間の感情」すらもインプットにして、新たなシグナルを市場から引き出すことができます。

MAとSignal Generation ISの連携

この概念をより明確にするために、MAとの関係性を整理してみましょう。

MAとSignal Generation ISの役割分担

こう並べると、どちらが優れているかという話ではないことが分かります。両者は「対立」ではなく「補完」の関係にあります。

MAとSignal Generation ISの理想的な連携
Signal Generation ISは「市場にシグナルを新たに作り出し、MAに燃料を供給する」役割。MAは「供給されたシグナルを効率よく処理し、ナーチャリング・スコアリングを自動化する」役割。この2つが連携することで、初めてマーケティングとセールスの循環が回り始めます。

多くの企業が苦しんでいるのは、この循環の「入口」であるSignal Generationが弱いために、MAが本来の力を発揮できていない点にあります。MAを活かすためには、MAに燃料を供給する「シグナル生成」の仕組みが必要なのです。

Signal Generation ISの定義

私はここで、新しい概念を正式に提案したいと思います。それは、インサイドセールスの役割を「Signal Generation IS」として捉え直すことです。

MAを活かすための「シグナル供給」
従来のアプローチは「Passive(受動的)」—— 顧客がシグナルを出すのを待ち、MAが反応し、ISがフォローする流れでした。対してSignal Generation ISは「Active(能動的)」なアプローチです。ISが先に動き、顧客のシグナルを引き出し、MAに供給する。この順序の逆転こそが、本質的な違いです。
Signal Generation ISの定義

Signal Generation IS(シグナル・ジェネレーション・インサイドセールス):インサイドセールスによる能動的な介入を通じて、MAが検知可能な「シグナル(行動ログ)」を市場から創出する活動、およびその役割を担うインサイドセールスチーム。MAというエンジンに対して、燃料となるシグナルを供給し続けることで、マーケティングとセールスの循環システムを駆動させるアプローチ。

この概念において、インサイドセールスは「オペレーター」ではありません。「MAエンジンを最大限に活かすための燃料(シグナル)を生成する、システムの上流に位置するジェネレーター」です。

MAとISの新しい関係性
デジタルで拾えない顧客は、アナログ(人)がシグナルを生成しに行く。アナログで刺激を与え、デジタル上のシグナルを発生させる。MAがシグナルを検知し、効率的にナーチャリング。温まったリードにISが再アプローチし、クロージングに向かう。
このデジタルとアナログのシームレスなループ構造こそが、Signal Generation ISの正体です。MAの力を最大化するために、ISがシグナルを供給する。この連携こそが、成果を生む鍵なのです。そして、このループを設計・実装できるのは、マーケティング担当者ではなく、顧客との接点を持つインサイドセールス担当者です。

なぜ今、Signal Generation ISが必要なのか

「AIや自動化が進む時代に、なぜ人間による介入が重要なのか?」と思われるかもしれません。しかし、逆説的ですが、AIが進歩すればするほど、Signal Generation ISにおける「人」の価値は増していきます。

生成AIによる「平均点の爆発」
ChatGPTなどの普及により、誰でも低コストでコンテンツを生産できるようになりました。結果、顧客の受信ボックスは「AIが書いたような丁寧なメール」で溢れかえっています。もはや、定型的なナーチャリングメールはノイズかもしれません。

「文脈」というラストワンマイル
このノイズの中で唯一、顧客の足を止められるもの。それが「強烈な文脈(コンテキスト)」です。
「〇〇様、先日のウェビナーの件ですが...」ではなく、「御社の決算資料の23ページにある『DX推進の課題』について、まさに似た状況を解決した事例がございまして、ご情報ご共有できればと思っておりまして...」
この「個別の文脈」を突きつける行為は、現在のMAには不可能です。文脈を読み解き、仮説をぶつけ、誤解があればその場で修正し、温度感を調整する。この「非定型データの高速処理」こそが、Signal Generation ISの価値です。
AIが進化するほど、定型業務の価値はゼロに近づき、この「人間による動的なシグナル生成」の価値が相対的に上がっていきます。

あなたの組織への問いかけ

ここまで読み進めていただいた方に、いくつか問いかけさせてください。

Q1. 成果指標(KPI)は「アポ数」だけになっていませんか?
Signal Generation ISの観点では、アポは結果の一つに過ぎません。「有効会話数」「ネクストアクション設定率」「シグナル発生数(架電後にWebアクセスがあった数)」など、市場にシグナルを生み出したプロセス自体を評価できていますか?

Q2. 架電スクリプトは「ワークフロー」になっていますか?
単なるトーク集ではなく、「YesならA、NoならB、保留ならC」といった、MAのシナリオ設計と同じレベルの分岐条件が、メンバー全員の頭の中にインストールされていますか?

Q3. マーケティング部門と「シグナルの定義」を共有していますか?
「資料請求があったら架電する」という一方通行ではなく、「こういう会話ができたら、マーケ側でこういうコンテンツを当ててほしい」という、IS発信のフィードバックループが回っていますか?

シグナル発生を可視化・計測する

Signal Generationを実践するうえで最も重要なのは、「シグナルが発生したかどうか」を感覚ではなく数値で把握することです。ここでは、具体的な計測方法と運用フローを解説します。
追跡すべきシグナルの種類

計測すべきKPIと計算式

運用フロー:架電リストとMAログの突合
シグナル発生を追跡するには、架電活動とMAのログを突合する仕組みが必要です。

ダッシュボード設計例
週次で以下の数値を可視化することで、Signal Generationの成果を追跡できます。

ポイント:アポ数だけでなく「シグナル発生数」を並列で追うことで、Signal Generationの成果が可視化されます。

Signal Generationを実践するISに求められるスキルセット

Signal Generationを実践するISには、従来の「アポ取り型IS」とは異なるスキルセットが求められます。ここでは、シグナルジェネレーターに必要な5つのコンピテンシーを定義します。

5つのコアコンピテンシー

従来型ISとシグジェネ型ISの違い

スキル別の育成方法

採用時に見るべきポイント

シグジェネ型ISを採用する際は、以上の観点で評価します。

マーケティング部門への逆フィードバック

Signal Generationの効果を最大化するには、ISからマーケティング部門への「逆フィードバック」が不可欠です。従来の「マーケ → IS」という一方通行から、「IS → マーケ」のフィードバックループを構築します。

なぜ逆フィードバックが必要か
マーケティング部門は、コンテンツやキャンペーンを設計する際、「顧客の生の声」を直接聞く機会が限られています。一方、ISは毎日顧客と対話し、以下のような情報を持っています。

  • どんな課題が「刺さる」か
  • どんな言い回しが「響く」か
  • どのコンテンツが「反応が良い」か
  • どんな誤解や懸念が「多い」か

この情報をマーケにフィードバックすることで、コンテンツの精度が上がり、結果としてシグナルの質と量が向上します。


ISからマーケに伝えるべき情報

フィードバックの頻度とフォーマット

「会話 → コンテンツ」連携の設計
ISの会話内容に応じて、マーケがコンテンツを出し分ける連携を設計します。

この連携を実現するには、ISがSFA/MAに「会話結果タグ」を入力し、マーケがそのタグに応じたワークフローを設定する必要があります。


マーケ × IS 定例MTGのアジェンダ例
週次または隔週で、以下のアジェンダでMTGを実施します。


介入の質を担保する ── 負のシグナルへのリスク管理

Signal Generationは「能動的な介入」を前提とします。しかし、介入の質が低いと、シグナルを生み出すどころか、リストを「焼畑化」してしまうリスクがあります。

負のシグナルとは
負のシグナルとは、ISの介入によって顧客の印象が悪化し、将来のアプローチ機会を失ってしまう状態を指します。

負のシグナルが発生する原因

介入の質を担保する仕組み
1. 品質モニタリング


2. 品質評価基準

3. NG行動リスト

以下の行動は明確にNGとして、チーム全体で共有します。

  • 「お忙しいところ」と言われたのに話を続ける
  • 相手が「結構です」と言った後も粘る
  • 同じ企業に週2回以上架電する(許可なく)
  • 約束した資料を送らない
  • 事前リサーチなしで架電する
  • 録音を聞かずに同じミスを繰り返す


4. 負のシグナル率の計測

シグナル発生率だけでなく、負のシグナル率も追跡します。

リカバリー方法
負のシグナルが発生してしまった場合のリカバリー方法です。

質の高い介入がもたらす好循環
介入の質を担保することで、以下の好循環が生まれます。

好循環に入れば、同じリストからより多くの成果が生まれます。悪循環に入ると、リストを消耗し、成果が出にくくなり、さらに焦るという負のスパイラルに陥ります。
Signal Generationの成否は、「量」ではなく「質」で決まります。
「シグナルを生み出す」ことと「リストを焼畑化する」ことは紙一重です。介入の質を担保する仕組みを整えることで、持続可能なSignal Generationが実現します。

最後に:MAとISの連携が、最強のマーケティングエンジンを作る

今回は「Signal Generation IS」ついて記載しました。
記事の冒頭で触れた「MAを入れたのに成果が頭打ちだ」という違和感。その正体が、少し輪郭を帯びてきたのではないでしょうか。
「インサイドセールスの価値を、自分自身が過小評価していたかもしれない」「MAの設定画面とにらめっこする前に、チームの『役割定義』を根本から見直すべきかもしれない」もし、そう感じていただけたなら幸いです。

私たちセルメイトでは、インサイドセールスチームの設計から実行までをトータルで支援しています。「なぜMAが機能していないのか」「なぜISが疲弊しているのか」を、ツールと人の両面から紐解き、Signal Generation ISの仕組みに限らず、インサイドセールス支援を行っております。
既存の組織構造の中で、この転換を一人で行うのは骨の折れる作業です。マーケティング部門との調整、評価制度の見直し、メンバーのマインドセット変革……やるべきことは山積みです。自社での設計が難しい場合、体制が整備されている外部のリソースを用いて立ち上げを行うこともお勧めです。
ご興味があればぜひこちらよりお気軽にお問い合わせください。

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