携わった2つのイベントについて
1.HR系イベント
まず1つ目は毎年実施しているHR系のイベントです。以下に記載されているように、かなり規模の大きなイベントですが、その分集客目標も高く、経営層や人事部門の方々にお越しいただくということで、「プロが学ぶことのできる場所」である必要があります。
結果的には多くの方にご来場いただくことができましたが、まだまだ課題も多く、逆にいえばとても伸びしろを感じています。これまでは開催企業の単独開催でしたが、今回から外部企業をスポンサーという形でご参画いただき、自社だけでは提供できない知見を参加者の方々へ提供することができました。
また、後ほど別の形でお話できればと思いますが、ワークショップの数に注目してください。90分以上の拘束時間になるワークショップが、10以上設定されています。イベント企画のご経験がある方は感じていただけると思いますが、拘束時間が長いほど集客には苦労します。一方でオフライン回帰を感じる大きなポイントでもあると考えています。
2.インサイドセールスカンファレンス
2018年にはじめて開催したイベントですが、数年は実施していませんでした。しかし、とあるきっかけで復活をさせることになり、今回は委員会制で実施することになりました。委員会として参加した企業は以下の通りです。
・スマートキャンプ株式会社
・SALES ROBOTICS株式会社
・株式会社OPTEMO
・株式会社Smapo
・株式会社immedio
・株式会社インサイドセールスプラス
インサイドセールス自体の認知や導入企業は、ここ数年で増加傾向にあると感じています。一方で、まだまだ知見が少なく、とくに「経営としてどう考え、判断していくべきか」については公の場で話されることが少ないように感じていました。
そこで、会全体のテーマを「事業成長にインサイドセールスは必要なのか」と設定し、基調講演も成長企業、上場企業の経営陣にお集まりいただき公開議論を行いました。※基調講演の内容はオフレコであったため、後日登壇企業各社に許可をいただいたうえで別途記事化いたします。
本イベントも多くの方にご参加いただき(公開情報では事前登録で1800名を超えています)、当日も大盛況だったと感じていますが、HR系のイベントと同様にまだまだ伸びしろを感じています。
成功しているイベントの共通点
上記のイベントに限定しない形で、多くのイベントに登壇、運営、参加をして体感した事実を元に共通点を整理していきます。
前提
オフラインイベントの需要が高まっているというのがあると思います。各種展示会に出展されている企業は感じていると思いますが、展示会にしても、イベントにしてもここ数年で今年が一番盛り上がっているように感じています。これは、テレワークからの回帰や、生活習慣が以前に戻ってきていることが大きく関係しているのではと考えています。
共通点
- 対象がベンチャー / スタートアップに寄っていない
- 1日で複数種類の学びを得ることができる
- 当たり前だがテーマやコンテンツパワーがある
1.対象がベンチャー / スタートアップに寄っていない
2024年にいくつかのイベントを経験して感じたことなのですが、多くのオフラインイベントに中堅中小、そして大手企業の方々の参加が多いように感じています。それはオフラインイベントの特性としてある「時間効率の悪さ」が関係しています。オフラインイベントは、セッションの時間だけではなく往復の移動時間も消費します。つまり、通常業務を圧迫するために参加するほどハードルが上がります。
事実として、大きな展示会の前後、同様のイベントの翌週などは集客が極端に厳しくなります。ベンチャー / スタートアップの周辺ではイベントも多く開催されているため、頻度が高まり続けるいまの環境での集客がかなり厳しくなってきます。また、コロナ禍でのイベント参加に制限が少なかったことも手伝って、このタイミングでも極端にオフラインイベントへの参加が増えていないという現実だと考えています。
加えて、オフラインイベントは東京での開催頻度が圧倒的に多く、最近では都外からの参加者も増えています。これは、オフラインイベントでしか触れることのできない情報があるという期待値や、リアルな学びへの期待もあってのことだと思います。しかし、時間的な負担が大きいことから次で述べる「複数の学び」という条件をクリアすることが求められています。
2.1日で複数種類の学びを得ることができる
1で挙げたようにオフラインイベントは移動時間の非効率さが目立ちます。ですから、一度の参加でどれだけのことが学べるか、が重要になります。ここでいう種類とは「セールスだけではなくマーケ」や「プレイヤーの活用するテクニックだけではなく経営層の思考」や「セミナーだけではなくワークショップ」などです。
これまでは聴講すること(セミナー参加型)がイベントのメインコンテンツだったと思いますが、それだけでは物足りない、学びが少ないというニーズの高まりを感じています。それは課題の多様化や、自身の市場価値を高めるため(スキルアップしたいというニーズ)などがあるからだと考えています。
統一感のあるメッセージとコンテンツは重要なのですが、参加者側の「効率的に学びたい」というニーズを叶えるイベントである必要があるのです。
3.当たり前だがテーマやコンテンツパワーがある
時事ネタや「ここでしか聞けない話」などが求められるのは変わっていません。人気のある登壇者や先進的な企業、いま話題のテーマを設定し、調整し、実現できる力が求められています。もちろん、代理店などを経由すれば有償で調整することもできますので、イベントの予算と相談しながらそういった経路で調整することも有効です。
しかし、2で示したように1日で多くの学びを得る、というニーズに応えるためには複数のセッションを作る必要があり、有名登壇者に依頼するということだけでは実現することはできません。主催者が実体験や調査、ヒアリングなどを通して様々なテーマや切り口や登壇者調整ができる必要があります。
また、これは私の個人的な思想ですが、「自分が見たいものを作る。自分がワクワクしないセッションは作らない」という考え方で企画しています。妥協することは簡単ですが、参加者が時間をかけても参加したいものを作ることが、イベントの成功にもっとも必要な要素だと考えています。
その他
SNSとの連携や拡散、グルーヴ感やつながりを強めるためのフォトブースもおすすめです。簡易なものであれば予算もそこまで必要ありませんし、サブタイトルやハッシュタグなどの手持ちアイテムを作っておくこともポイントです。イベントの参加層との相性もありますが、かなり幅広く受け入れられるオプションだと思います。※以下はXより引用。#ISC2024
ワークショップの重要性
これも今年かなり強く感じているポイントなのですが、とにかくワークショップの人気が凄い。某HRのイベントでは、16あるワークショップがすべて即完。インサイドセールスカンファレンスでもすぐに満席になりました。また、最近開催されていたイベントでは20近いワークショップが企画されていました。
ワークショップは60〜90分が基本、場合によっては120分というものも存在します。基本的なワークショップのモデルを以下に記載しますので参考にしながら、自社に合ったワークショップを企画してください。
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例)AIを活用したメール作成ワークショップ
1. ワークショップの目的
参加者にAIツールを使った効率的なメール作成の方法を学んでもらい、実際に業務や日常で活用できるスキルを習得することを目的とします。
目標
- AIを活用したメール作成の基礎知識を習得
- 効率的で効果的なメールを素早く作成できるスキルを身につける
- 適切なトーンと内容で、ビジネスや個人の状況に応じたメールの書き方を学ぶ
2. タイムラインとアジェンダ
アジェンダ例
- 10:00〜10:15 - オープニング & イントロダクション(ワークショップの目的説明)
- 10:15〜10:45 - AIツールの紹介と使い方(例: ChatGPT、Grammarly)
- 10:45〜11:30 - グループワーク: AIを使ってメールを作成する
- 11:30〜12:00 - 成果発表とフィードバックセッション
- 12:00〜12:30 - クロージングとQA
3. 参加者とのエンゲージメント
- アイスブレイク: 「最近送ったメールで苦労したこと」を共有し、メール作成の課題を洗い出す
- グループワーク: 小グループに分かれて、AIを使って特定の状況に応じたメールを作成してもらう
- 例題メール:
- ビジネスメール(クライアントへのプロジェクト提案)
- フォローメール(ミーティング後のフォローアップ)
- 個人メール(友人への感謝メール)
4. アクティビティの設計
ステップ1: AIツールの使い方を学ぶ
- デモンストレーション: 実際にAIを使って簡単なメールを作成するデモを行います。
- 例: ビジネス向けの新規提案メールや、日常的な返信メールをAIツールに入力して、どのような結果が得られるかを解説
- 使い方ガイド: 具体的にどのようにAIツールを活用してメールを効率的に作成できるかのポイントを解説
ステップ2: 実践ワーク
- 課題: 各グループに、特定のシナリオ(顧客対応、プロジェクトのリマインダー、感謝状など)を割り当て、AIを活用して最適なメールを作成する課題を出します。
- 実際にAIを使う: 参加者は各自のデバイスでAIツールを使いながら、メールの草案を作成します。
- AIツール例: ChatGPT、Grammarly、Jasper.ai
- 作成ステップ:
- AIに状況を入力して基本的なメールの構造を作成
- 出力結果を精査し、適切なトーンや文体を調整
- グループ内でフィードバックを行い、改善点を洗い出す
ステップ3: 成果物の共有とディスカッション
- 各グループがAIを使って作成したメールを発表し、他のグループからフィードバックを受けます。
- どのようにAIが役立ったか、どのような改善が必要かを議論します。
6. 成果の共有
ワークショップの最後には、作成したメールの内容やAIを活用した効果を共有します。
- 成果発表: 各グループが作成したメールの内容を発表し、AIを使って何が効果的だったかを共有
- フィードバックセッション: 他の参加者からのフィードバックを基に、メールの改善点や新しい学びを確認します
7. フィードバックとクロージング
ワークショップ終了後、フィードバックを収集して今後の改善に役立てます。また、今後のメール作成でAIをどのように活用できるかについての振り返りを行います。
- フィードバック方法: 簡単なアンケートフォームや口頭での感想共有
- 次のステップ: AIを今後のメール作成や他の業務でどのように活かすか、各参加者が自分の目標を確認
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ワークショップを開催する難点は以下です。
・ファシリテーターの発掘、育成
・時間などの投資に対して参加者が少ない ≒ 獲得できるリード(商談)が少ない
・経営層の参加(集客)ほど難しい
ワークショップも万能というわけではありません。しかし、ただ大規模セミナーを実施するだけでは参加者を増やすことは難しくなってきます。ですから、目的をしっかりを据え、用途を分けたうえで企画実行することが重要です。手間はかかりますが、キラーコンテンツになっていくことは間違いありません。
これはまだ想定段階ですが、終日、もしくはコンテンツのほとんどがワークショップという企画も面白いかもしれません。大きな会場で一度のセミナーにたくさん集客するよりも、小さなスペースを複数使ってワークショップを実施することができれば、参加者の満足度も上がるかもしれませんし、期待値の高いリード獲得につながるかもしれません。
そうなってきた場合にはホテルのようなセミナー会場が好まれるかもしれません。実際にセールスフォースジャパン社のイベントはプリンスパークタワー、そして多くの企業のイベント会場として、ANAインターコンチネンタルホテルなどが活用されています。個人的には、国際フォーラムのホールEとガラス棟(会議室スペースが複数ある)の組み合わせもおすすめです。
これまで東京は、カンファレンス会場が少ないという課題に直面してきましたが、大規模セミナーを除けば、工夫次第でいくらでも開催可能、そしてワークショップが更に増えることがあればそのポテンシャルはまだありますし、自社の会議室を活用することでも代替可能です。
Chalk talkのすすめ
昨年参加した AWS re:Invent でも100以上のChalk talk(チョークトーク)が開催されていました。耳馴染みのない方に簡単に説明します。
名称:チョークトーク(黒板を使った講義)
内容:短い時間(10-15分)で概要を説明し、そこからはQ&Aのような形で進行する
形式:ホワイトボードなどを活用し、板書しながら進める
特徴:参加者の質問に対して資料や板書をすることで理解を深める
主にテクノロジー系のカンファレンスで多く使われる方式ですが、昨今のワークショップへの期待値の高まりを感じると、これから日本でも多用されていくのでは?と考えています。
理由は、「資料などの準備が最小限で済むこと」や、「参加型なので聴講者の満足度が高まりやすいこと」など、本数を増やすことで懸念される工数と満足度問題を解決することができるからです。しかし、ネガティブな一面も存在します。それは登壇者の確保と、参加者の能動的な姿勢が必要ということです。
登壇者は決して登壇慣れしている必要はありません。派手なプレゼンテーションも、引き込む演出も必要ないからです。一方で、どんな質問にも答えることのできる知識と経験が必要になり、それが満足度に影響します。また、参加者からの質問が少なければ成立しませんので、運営側だけではなく、参加者側の温度感や積極性が重要になります。
まだ日本では馴染の浅いChalk talkですから、先行者は利益よりもむしろマイナスの方が多いかもしれません。それでも挑戦することで、これから先のオフラインイベントにおける知見を最初に得ることは大きなアドバンテージになると信じています。
引用元:https://x.com/sseymour/status/1067113545639243777?s=46
イベント前後の動き
イベントは開催当日だけではありません。集客時からもちろん始まっていますし、終了後にもいろいろな仕掛けを用意することで、その効果を高めるとともに、次回参加への期待値を高めます。
- 開催の1ヶ月以上前からLPをオープンし、コンテンツを順次公開していく
- 先行申込特典を用意する
- 招待制コンテンツを用意する
- ReCapイベントを開催する
1.開催の1ヶ月以上前からLPをオープンし、コンテンツを順次公開していく
もしかすると「コンテンツがすべて確定してからLP公開すべき」という意見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、私は順次公開すべきだと考えています。理由はいくつかありますが、主に「申し込み率」と「参加率」のためです。
申し込みをしていただくためには、その方のニーズにあったコンテンツを用意することが必要ですが、そもそもLPに来ていただく必要があります(招待を除く)。しかし、どのタイミングで見ていただけるかはわかりません。ですから、LPの公開時間をある程度長くすることで接触できる可能性を増やします。イベントはどうしても登壇者の調整などに時間を要するので、場合によってギリギリまで詳細が決まらない場合があります。しかし、そこに合わせていてはいつまで経ってもLPを公開することができません。その機会損失を避けるために、一定の情報が揃った段階で公開することを推奨します。
2.先行申込特典を用意する
これはある意味王道ですが、早く決断していただいた方へのインセンティブを用意することで申し込みを獲得していくためです。海外の有償イベントでは「Early bird discount」などと表現されるような「早割」などが一般的です。また、「先着順」などのセミナーを設けることも先行特典になります。
3.招待制コンテンツを用意する
イベントそのものを招待制にするという方法もありますし、特定のセッションを招待制にすることで、セミナー内容とのズレを無くし、満足度や完成度を高めることができます。また、招待制コンテンツを作ることで、お客様を招待するというアクションが発生し、もしイベントにご参加いただけなかったとしても、接触機会を増やすことができます。
4.ReCapイベントを開催する
ReCapとは直訳すると「要約」です。つまり、イベント内容のサマリーを説明したり、追加情報を加えて発信したりするなど、イベント当日に参加できなかった方、もしくは参加はしていたが情報に不足を感じている方などのニーズに応えるために実施します。
例)
・海外イベントの情報を要約して日本で展開
・イベント最終日にこれまでの要約セッションを開催
・イベント参加出来なかった方のためにオンライン開催
参加者が再度参加する場合もありますし、参加申し込みしたが不参加、参加申し込みからしていない方などへアプローチすることが可能になります。これも上記と同様に、次回参加者の期待値を上げ、次回参加者数を増加することにもつながります。
引用元:https://aws.amazon.com/jp/events/reinvent-recap/
まとめ
本記事では、2024年のオフラインイベントで感じたことや、事例を元にリアルな内容をお伝えしてきました。まだまだ成功したとは言いづらい状況ではありますが、その中で見えてきたことは、やはり凡事徹底。参加者の意向と自社の狙いをどちらも深く考察し、限られた時間を投資していただくために徹底的に内容を磨き込むしかない、という結論です。
しかし、その中にもテクニックや時事的に盛り込んだ方が効果的なものもあると考え、こういった形にしてみました。私も常に勉強中の身ですので、ぜひ感想と共に皆さんの知見もシェアいただけますと幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。