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まずはここから始めてほしい「限定ヒアリング」のすすめ

大野裕太郎 | _KNOWLEDGE WORK2023/11/17
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本記事では、とくにSDR(マーケティングの獲得した問い合わせ対応が中心のインサイドセールス)に有効な、ヒアリングスキルを強化するための「限定ヒアリング」について説明します。入社(配属)すぐのルーキーの教育や、スランプ気味の方へのサポート、さらに能力強化したいインサイドセールスの方など、多くの方にとって参考にしていただければと思います。

大野裕太郎 株式会社ナレッジワーク所属。立命館大学卒業後、2019年に新卒で人材派遣会社に入社するも4ヵ月で転職を決意し、2019年12月TOKIUMに入社。インサイドセールスチーム配属後、イベントマーケティングやフィールドセールスの兼任を経てマーケティング部副部長として活動。2022年9月より新設されたインサイドセールス部部長に就任。2023年12月より現職。

ヒアリングはとても難しい


「お客様に質問をするだけ」、そう思われがちなヒアリングですが、実際にやってみるととても難しいものです。理由はいくつかありますが、「こちらが聞きたいことを一方的に聞く」という尋問スタイルでの失敗が多いように感じます。本来はお客様の状況を把握し、最適な質問によってそれを掘り下げ、そしてニーズを顕在化していくべきなのですが未経験の方にいきなりこれを求めるのは難しいと思います。

また、教える側にも高いスキルが求められます。インサイドセールスは違うお客様に対して1日に何回もアプローチすることがあるため、とあるケースで成功しても他のケースではうまくいかなかったということが日常に発生します。そこで再現性を担保しようとするのですが、すると画一的なヒアリングになってしまい、結局はうまくいかないというループに陥るのです。

そこでヒアリングのフレームワークであるSPINを活用しようとするのですが、SPINの習得には高い技術と長い年月が必要になります。詳細は割愛しますが、とくに示唆質問が高難易度です。

示唆質問とは?
問題を深堀りし、その問題がいかに大きなダメージを生み出しているか、もしくは将来的に大きなダメージになるかを理解してもらうための質問。買い手が「解決するほどの問題ではない」という認識から「解決しなければいけない」と考え方を変化させる目的で行う。

どうですか?これを読んだだけでもその難しさを理解いただけると思います。また、示唆質問を行うためには商材の深い理解が必要不可欠です。商材の勉強をしながらヒアリングも強化しなければいけないという点も難易度を上げている原因です。この高いスキルを有し、常に再現性のあるヒアリングを実行できるインサイドセールスを育成するためには、1ヶ月や2ヶ月といった研修期間だけでは到底足りません。

解決策は「限定ヒアリング」


限定ヒアリングとは、たったひとつのルールを使ってお客様と会話するトレーニング手法です。そのルールは次の通りです。

・冒頭の挨拶、仮説の提示を除いて、相槌とお客様の言った内容しか使えない

これだけです。冒頭は「今回は資料請求ありがとうございます。お問い合わせいただいた経緯を教えていただけますか?」や「デモのご視聴ありがとうございます。新製品のリリースに際しての情報収集でしょうか?」など(メインは前者になります)、きっかけ作りとなる発言はOKですが、それ以降はお客様の発言しかこちらも発することはできません。

例えば、経費精算システムのインサイドセールスだとしましょう。あなたはたくさんのことをヒアリングする必要があります。例としていいくつかあげてみます。

・月間の請求書処理枚数
・処理システムの有無
・処理のフロー
・現行の問題点や不満
・その他

これらをヒアリング項目として設定している場合、インサイドセールスの皆さんは「次に何を聞こう」「ここに課題がありそうなので深堀りしよう」などを考えていると思いますが、限定ヒアリングでは一切こちらが先に切り出すことは禁止です。お客様が「請求書の枚数は〜」
と言ってくれない限りそれについて質問することはできないのです。

限定ヒアリングの目的


限定ヒアリングの目的は次の3点です。

  1. お客様の困りごとにたどり着きやすくなる
  2. お客様に嫌がられない質問の仕方が身につく
  3. 複数商材を持っている場合、複合的な提案がしやすくなる


1点目ですが、こちらが用意したトークスクリプトや質問リストは「自社が訴求したいポイント」に誘引するように作られています。もちろん一部は正しいと思いますが、本質的な問題にたどり着けないことも多く、そういった商談では結局失注しやすくなってしまいます。

2点目は会話の流れです。お客様の回答とは違うことを聞く、つまり会話に流れがなく唐突な質問が多いとお客様はストレスを感じます。皆さんのように準備して話していませんし、ストーリーやゴールイメージもありません。そんな状況でバラバラと質問をされれば、ストレスを感じて答えたくなくなってしまうのも当然です。

また、3点目に記載している通り単一商材でも効果的ですが、もし皆さんが複数商材を持っている企業であればさらに効果的です。こちらから「こんな課題はありませんか?」と問わずに自然にお客様の回答から「この組み合わせが最適です」と訴求できるので、ぜひ取り入れてほしいと思います。

限定ヒアリングの効果


まず第一にオンボーディング期間の短縮です。限定ヒアリングは商材の知識がまだ弱い状態でも実行できますし、やることが「お客様の発言を拾って質問する」という1点なので、そこだけに集中することで上達が非常に早くなります。弊社では直近の6人中6人がオンボーディング期間が短縮しました。

そしてお客様の困りごと、課題がそのまま提案優先度になることで商談が進みやすくなります。ここも同様に効果が現れ、有効商談化率が1.6倍に上昇しました。弊社のフィールドセールス(以下、FS)は「網羅的にヒアリングされた商談はもちろん嬉しいが、それよりも「お客様が本当に困っていることはなんのか、優先して解決したい課題はどれなのか」がクリアになっている商談」が良い商談だと言っていました。

また、副次的な効果としてスランプからの脱出もあげられます。インサイドセールスとして私も経験がありますが、スランプが突然やってきます。数日間0が続く日もあり、「一体これまでどうやって商談を生み出していたかわからない」という心情になり、焦ることでさらに商談獲得から遠ざかります。そんなときは基本に立ち帰って限定ヒアリングを実施すると、比較的早くスランプから脱出することができます。それは、スランプの原因が「成功体験を重ねた慣れによる売り手本意のトーク」になってしまっているからだと個人的には考えています。

限定ヒアリングのトレーニング方法


前述した通りルールは簡単です。冒頭の質問以外、こちらから訴求したり質問したりすることはできません。ここでは少し例をあげながらルールを説明していきます。

①冒頭
「今回のお問い合わせの背景を教えてください」
「セミナーにご参加いただいたきっかけを教えてください」
※冒頭は基本的にどんなものでもOKです。リード流入のきっかけに関することであれば。

②お客様の回答「◯◯に関する情報収集で〜」に対して
OK
「具体的にはどのような情報収集でしょうか?」
「なぜその情報収集をしようと思われたのですか?」

NG
「◯◯の情報収集ということは◯◯に課題感をお持ちなのではないですか?」
「◯◯の情報収集をしているお客様は◯◯にもご興味をお持ちなのですが...」

③お客様の回答「今度施行される法律に関しての情報収集で〜」に対して
OK
「◯◯についてですね。その新しい法律でなにか気になっている部分はありますか?」
「その情報収集は◯◯様が個人的に行っているものでしょうか?」

NG
「ちなみに月間の請求書の処理枚数は何枚くらいですか?」
「請求書の処理方法はどうなっていますか?」

上記のように、まずはお客様の声に耳を傾け、何に興味があるのか、何に困っているのかをヒアリングしていきます。慣れていないと言葉に詰まってしまうことも多々ありますので、お客様役の方は「これ以上質問がないのであれば電話を切らせていただけますか?」と言って会話を終了させてください。

④次のステップ
まずは5段階のヒアリングを目指してください。※5回質問で深堀りする、という意味です。
そして5段階のヒアリングがクリアできたら、そこまでの内容を活用して提案しても良いというルールでロールプレイングを継続しましょう。ここまででヒアリング能力がかなり向上していますし、5回のやり取りができればお客様との信頼関係も比較的構築できていますし、なによりお客様の課題がクリアになり、最適な提案ができるはずです。

OK
「これまでお伺いした状況からお客様の課題は◯◯かと思いますがいかがでしょうか?」
「おそらく課題は◯◯だと思います。その状況でしたら◯◯が課題解決につながると思うのですがいかがでしょうか?」

NG
「その課題が解決可能なので商談日程を調整させてください」(お客様は何が解決できるのかイメージがない)
「その他お困りのことはございませんか?」(ひとつも解決していない中での深堀りはストレスが大きい)

まとめ


この限定ヒアリングは立ち上がりや、有効商談化率の向上などメリットがたくさんありますが、このトレーニング終了後、インサイドセールスのメンバーが架電する際にとても楽しそうに電話しているのが印象的でした。コミュニケーションはついつい自分本位になりがちです。自分が楽ということは相手にとっては不自由かもしれない、そういった意識を持ってお客様、買い手にとってより良いビジネスパートナーを目指していってほしいと思います。お読みいただきましてありがとうございました。

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