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POD型組織への変遷とその効果について

大里紀雄|Micoworks2023/11/17

B2Bマーケティングに携わった経験のある方であれば、「THE MODEL」は聞いたことがあると思いますし、Inside Sales Plusの読者の皆様であれば普段からフル活用されていることと思います。私は「THE MODEL」の著者である福田康隆さんがいたMarketo(現在はAdobe社)で、ビジネス コンサルタントとして働いていたこともあり、分業体制には慣れ親しんでおります。※THE MODELとは「組織のボトルネックを発見、解消するためのフレームワークであり、その本質はリソースの分配である」と福田さんもおっしゃっており、分業型を直接的に指すものではありません。そんな私が、B2Bマーケティング、特にエンタープライズにフォーカスしたマーケティングをする際に、分業型で直面した課題と、それを乗り越えるために取り入れた新たなレベニュー組織の体制「PODs」を紹介します。

大里紀雄 株式会社Micoworks Director。大手Web制作会社にてチーフデータアナリストとして、DMPの構築および活用支援、広告運用の業務に従事。マルケトではシニアビジネスコンサルタントとして業種業界を問わず、大手企業から中小企業まで、MAツールの導入や戦略構築支援を行う。 その後、複数の事業会社で大規模カンファレンスの企画運営や、オウンドメディアの構築などのマネジメント、アジアパシフィック地域のマーケティング戦略立案や広報活動など幅広い業務を経験し、現在に至る。

「分業」は魔法の杖ではない

 
分業によって業績が向上した、様々な取り組みが可視化されたことによってマーケティングチームの評価が向上したと耳にする機会が増えました。しかし、チーム編成や、KPI管理など一部のメソッドを導入しただけでは期待通りの効果が得られず、様々な方々から助言を求められる機会も同時に増えました。 
 
どんな事業であっても必ず「分業化のアプローチを採用すれば業績が向上する」ということはあり得ませんし、分業が魔法の杖のように全課題を自動的に解決してくれることもありません。
 
たとえば、私の前職である外資系AI企業では、特定業界の大手企業向けに超高単価なサービスを提供しておりました。いわゆる超バーティカルSaaSのため、サービスの提供対象となる企業は限られており、日本国内におけるターゲット企業はたったの数社でした。そのような状況では、新たなリードを展示会で大量に獲得する必要はありませんし、インサイドセールスも不要です。また、SFAを導入していましたが、管理についてはエクセルでも十分事足りる商談数と顧客数でしたので、MQLもSQLも当然細かくチェックする必要はありません。つまり、分業の必要もなければ定量的に全体を判断する必要性も低いのです。
 
これは一例ではありますが、どのようなケースであっても分業で上手くいくわけではありません。ビジネスモデルやターゲットに合わせて適切なレベニュー組織を作り上げていく必要があるのです。
 

分業制は対象顧客数が少ないと機能しない

 
「分業制を導入さえすればマーケとインサイドセールスから商談が自動的に供給されるので、営業は受注を決めるだけ」といった拡大解釈がされがちですが、事実そうした側面はあるものの、「マーケとインサイドセールスから”も”商談が供給されるようになる」程度に捉えておくのが営業サイドとしては健全かと思います。
 
B2B領域における従来のマーケティング組織は、パンフレット作成や展示会運営を行い、営業企画的な立ち位置で、営業の支援をミッションとしている企業が多かったように感じています。ですから、営業が自ら見込み顧客を見つけ、商談機会を作りクロージングまで行うのが当たり前だったように記憶しています。
 
私が知るトップパーフォーマーと言われる営業の方々の多くは、インサイドセールスから供給される商談とは別に、様々なネットワークや紹介を駆使して自らパイプラインを積み上げていました。つまり、トップパフォーマーは従来の営業スタイルと、分業によるメリットを掛け合わせることで高い成果を出しているのです。
 
また、マーケとインサイドセールスから商談が自動的に供給される状態になるには、フォーカスしている対象群が例えばSMB(中堅中小企業)であり、企業数の母数が一定以上存在する必要があります。当然ですが、大手企業にフォーカスするほど、ターゲット企業数は減少しますし、特定業界で絞り込むと対象企業数はさらに限定されます。こうしたセグメントをターゲットにする場合はそもそも企業数=母数が少ないため、自動的に商談をポンポンと絶やすことなく供給することは難しく、シンプルな分業制が思ったように機能しなくなります。
 

エンタープライズ特化に伴い、POD型組織に転換

 
POD型組織とは、Google社やHubspot社で採用されている「少人数で必要な機能を揃えている組織」です。今回のテーマになぞらえていえば「マーケティングからインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスマネージャーに至るまですべての役割をひとつのチームとして組成する」ということになります。参考記事はこちら
 
当社が提供している「LINEを活用したマーケティングツール MicoCloud(ミコクラウド)」は、以下の2点を理由に今後はよりエンタープライズにフォーカスしていくことになりました。
 
・SMBよりもB2Cの大手企業の方がより多くの価値が提供できる
・エンタープライズセールスを得意とする人材の採用に成功している
 
マーケティングチームとしては、エンタープライズにフォーカスすることでターゲットとなる企業数が少なくなる一方で、その狭い領域での認知を高めたいと考えていました。マス広告などで業種や企業規模に関係なく広く認知を得ても、非ターゲット企業の含有率が高くなり、認知獲得施策としては非効率なものとなります。そのため、ファネル型のアプローチではなく、エレベーター型のアプローチを取ることが必要となると考えました。
 

 
また、ターゲット企業数が限られる場合、行動変容を促すには顧客の特性をより詳細に把握する必要があるので、一般的な幅広いメッセージではなく、対象業界に対して深く刺さる専門的な知見をベースにしたアプローチが求められます。
 
そこで、認知はもちろん商談の獲得においても一般的な分業制とは違う形の組織運営の模索を始め、知人へのインタビューや海外記事などの情報を参考に行き着いたのが「POD型組織」です。
 
弊社の場合のPOD型組織は「分業型の組織をセグメントごとに作るイメージ」です。業界A向けのPODs(マーケティング→IS→営業→CSM)、業界B向けのPODs(マーケティング→IS→営業→CSM)という形で、 マーケからCSまでが一気通貫の組織で特定セグメントに対して、専門性の高いメンバーが集まって向き合うのです。セグメントごとに分かれているので、マーケティング・インサイドセールス・営業・CSMの経験やナレッジがPODsに蓄積され、顧客解像度が高まることで、業務効率化や売上アップが見込めるのです。
 

POD型組織の実践

 
PODsに関する様々な情報を集めてどのように活用すればよいか、セールスチームとも討議を重ねながら自社へ落とし込んでいきました。従来の組織に課題を感じていたとはいえ、かなり大規模な組織改編になることから不安の声も聞こえてきましたが、短期的な業績よりも長期的に大きな成果の狙える組織に変わるべきとの意見が多く、実行に移すことになりました。
 
組織再編時の不安なポイント
・再編に多くの時間が必要となる
・一時的に商談数が減少する
・失敗した際にもし従来の形に戻す場合、再度スイッチングコストがかかる
・再編したとしても成功するとは限らない
 
上記のような不安もありましたが、前述した通りさらなる成長に向けて組織再編を実行しました。そして弊社では「エンタープライズ企業×特定業界」に対して、「マーケティング、SDR、BDR、セールス、CSM」の5チームから1名が参加してPODsを組成することになりました。
※MM(中規模企業)、SMB(スタートアップや少数精鋭企業)においては従来通りの分業型組織で運営しております。

 
上記の図のようにチームを再編し、エンタープライズ企業についてはPODsを組成。PODsではまず現状の整理とターゲティングの修正、アプローチしてから商談、成約となるまでの流れを可視化、共有し、施策を練り上げていきました。
 
実際に運用してみると、たしかに打ち合わせや情報共有に時間が必要なものの、これまでとは違い部門間での意見衝突(主に工数や費用)がなく、商談を前進させるために何が必要なのか、という建設的な議論が増えました。
 
また、同じ情報やお客様の状態を全員が理解した上で議論をしているので、アイデアの数も飛躍的に増えたように感じています。同じ情報を持った違う能力や経験のあるメンバーが議論することで、これまでは思いつかなかったような施策が数多く起案されました。
 
もちろんこれは良いところばかりではありません。それを考える時間というコスト、実行するための実質的なコストが増加することになるので、より大きな売上が狙えるエンタープライズ企業に絞って弊社では展開しています。
 

POD型組織の効果と課題

 
大きなメリットを享受したのがスピードです。POD型組織を導入後、マーケやSDR・BDRが特定業界にアプローチするために、チームを超えてアタックリストを用意し、リードの獲得チャネルを協議することで、特性セグメントの商談数が想定の1.2倍ほど多く獲得できています。また、有効商談化率においては通常のアプローチよりも15%ほど高くなっております。(これから商談から有効商談へと転化するものもあるため、数値はさらに上ブレする想定です)

特定セグメントのターゲットリストの作成には、既存取引先や商談中企業などを省きつつ、社員やボードメンバーに接点のアリナシを確認し、優先順位をつけてから担当を割り振るなどかなりの工数がかかりますが、POD型組織であれば、インサイドセールスに偏らずPODsのメンバーで一気に取り組むことができます。その結果、想定より2分の1程度の日数で精度の高いアタックリストを作成することができました。
 
一方で現在、課題に感じているのは採用です。本来は業界ごとにPODsを組成したいところですが、少数精鋭でチームを組むスタートアップ企業では人的リソースの問題で難しいのが現状です。1人が複数のPODsを掛け持ちすることも考えたのですが、それでは業界知識やノウハウの吸収に限界が来ますし、PODsでやる意味が薄れてしまいます。
 
PODs型組織は人的リソースが潤沢にないと難しい面もありますが、今のところかなり効果的な体制だと感じていますので、成果を出しながら人員を強化し、他の業界やターゲット層でも同様、もしくはそれ以上の成果を狙った組織構築を目指しています。
 
本記事ではPODsを導入した背景と途中経過を紹介させていただきました。どこかのタイミングでさらに進んだ組織について、そして成果についてもより具体的にご紹介できれば幸いです。お読みいただきましてありがとうございました。

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