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エンタープライズインサイドセールス完全ガイドー成果を出す行動原則とキャリアパス

小林 洋介|パートナープロップ2025/8/16
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インサイドセールスの役割は、単なるリード獲得にとどまりません。特にエンタープライズ領域においては、顧客が抱える複雑な課題を深く理解し、長期的な視点で最適なソリューションを提案することが求められます。しかし、日々のKPI達成に追われるだけでは、真の成果に結びつかないことも少なくありません。本記事では、カミナシ時代に実践したエンタープライズインサイドセールスとして成功するために必要な行動原則と、その先にあるキャリアの可能性について具体的に解説します。

新卒で大和証券に入社し営業と情報システム部門を担当。その後日本オラクル、マルケトでISとFSに両方を経験。マルケトでは『THE MODEL』著者・福田康隆氏の下でBDR組織の立ち上げに従事。 ヤプリではBDR マネージャーとして株式上場に貢献し、2023年にカミナシに参画し、エンタープライズ事業の立ち上げ〜成果創出〜組織拡大〜採用活動と幅広く担当。現在はパートナーマーケティングを実現するSaaS『PartnerProp』を提供する、パートナープロップ Growth部の責任者としてマーケISチームの組織拡大、ABM × パートナー協業のパートナーマーケティングにチャレンジ中。


成果を出すインサイドセールスが持つ「思考力」

成功するインサイドセールスの共通点は、仮説を立て、行動し、成果につなげる「Amazonのメカニズム」を回している点にあります。


(出所:【書評】『amazon「帝国」との共存』(ナタリー・バーグ他)

このサイクルを具体的に見ていきましょう。

思考力の正体:「仮説・行動・改善」を回すAmazonのメカニズム

ステップ1:仮説の設定

顧客像の具体化: ターゲット企業の業界、規模、役職、そして彼らが抱えているであろう「課題」や「関心事」を具体的に想定します。

アプローチ手法の選択: その課題に対し、どのような情報を提供すれば響くか、メール、電話、SNSなど、どのチャネルが最適かを考えます。

成功/失敗要因の分析: 過去の類似案件やチーム内の成功事例を分析し、「なぜ成功したのか」「なぜ失敗したのか」を特定し、仮説に活かします。

ステップ2:行動(検証)

仮説に基づくアプローチ: 設定した仮説に基づき、具体的なアクション(メール送信、電話、SNSでのコンタクトなど)を実行します。

効果測定(ABテストなど): 複数のパターンを試すことが重要です。例えば、メールであれば件名や本文の切り口を変えたA/Bテストを行い、どちらが効果的かデータを収集します。

ステップ3:成果の分析と改善

  1. データに基づく振り返り: 開封率、返信率、アポイント獲得率などのデータを基に、どのアプローチが有効だったのかを客観的に評価します。
  2. 改善策の立案と実行: なぜその結果になったのかを掘り下げ、うまくいかなかった点は改善策を考えます。そして、その改善策を新たな「仮説」として、再びサイクルを回します。


このサイクルを繰り返すことで、成功率の高いアプローチが見つかり、継続的な成果につながります。

実践事例:メール返信率を3倍に高めた「顧客視点」への転換


実際に、インサイドセールスチーム内で協力しながらメールの文面を見直し、改善を重ねた結果、顧客の反応が大きく変化した事例があります。

私が入社した当初、チームには汎用的なメールテンプレートが存在しました。しかし、その内容は製品の機能紹介が中心で、顧客から見れば日々大量に届くメールマガジンとの違いが分かりにくいものでした。これでは、顧客が「自分に関係がある」と感じ、開封・返信に至るのは難しい状況でした。

そこで、チーム内でメールの文面をブラッシュアップするミーティングを週に一度開催。持ち回りで文面をレビューし合い、成功・失敗事例から得たナレッジを蓄積していきました。その中で、基本的な「たたき台」となるメールテンプレートを作成し、メンバーが顧客に合わせて主体的にアレンジできるようにしました。

【改善前】製品紹介中心のアプローチ
導入ロゴの羅列、一般的な製品紹介メールを送信。返信率も低い状態でした。

【改善後】顧客の課題に寄り添うアプローチ
顧客の業界特有の課題やニーズに焦点を当てた内容に変更しました。
顧客の抱える課題に寄り添い、具体的な解決策を提示することで、関心を引くことを目指しました。

【改善結果】部長クラスとの商談獲得へ
結果として、メールの返信率が大幅に向上し、これまでアプローチが難しかった部長クラス以上の役職者との商談を獲得できるようになりました。

  • 返信率は約3%から約9%と約3倍に上がりました。


このように、「顧客の視点に立つ」という一歩進んだアプローチが成果を大きく変えます。

では、こうした思考法を日々の活動に落とし込み、成果を最大化するには、具体的にどのような行動を心がけるべきでしょうか。次に、私たちが実践する「3つの行動指針」をご紹介します。

成果を最大化する3つの行動指針

インサイドセールスでは、現状のやり方を続けるだけでは大きな成果を生むことはできません。ここでは、成果を最大化するための3つの行動指針を解説します。
1.データを活用し、PDCAを回す
感覚だけに頼るのではなく、データに基づいた客観的な判断を繰り返すことが成長の鍵です。

  • 有望なリードの特定: SalesforceなどのCRMに蓄積されたデータを分析し、「過去の失注リスト」や「長期間動きのない休眠リード」の中から、再度アプローチすべき有望な企業を特定します。これにより、アプローチの全体母数を質の高い状態で増やすことができます。
  • 最適なアプローチの模索: メールの件名やアプローチの時間帯を変えるA/Bテストを常に実施し、最も効果的な「型」を見つけ出します。


2.チームワークを活かし、組織で戦う
個人の力には限界があります。チームや他部門と連携することで、より大きな成果を生み出せます。

  • 部門間連携: マーケティングチームとはリードの質について、フィールドセールスとは商談後のフィードバックを密に共有し、戦略の精度を高めます。
  • ナレッジの共有: 実践事例で紹介したメール文面のレビュー会のように、チーム内で成功事例や失敗事例を共有し、全体のスキルを底上げします。

3.新しい手法を積極的に試しパーソナライズを極め、信頼を勝ち取る
特にエンタープライズ領域では、一社一社に合わせた深いアプローチが他社との決定的な差別化に繋がります。時間をかけて「Why You?(なぜ、あなたの会社なのか)」「Why Now?(なぜ、今なのか)」を考え抜き、個別最適化されたアプローチを行う必要があります。
その具体的な手法の一つが、顧客の過去の状況を踏まえたアプローチです。
例えば、CRMの情報を基に「昨年のいつ頃、どのような提案をし、どのような理由で失注したか」といった具体的な内容をメールに記載することで、担当者が明かせなかった「本当の失注理由」を引き出せる可能性があります。

この「営業が把握できなかった本音」を掴むことこそが、的確な再提案への道を拓く鍵となるのです。
もちろん、こうした深いアプローチにはリスクも伴います。以前、ある企業の複数担当者にアプローチした際、「自分が窓口だ。勝手に連絡しないでくれ」とお叱りを受けたことがありました。


この一件でチームは一時的に萎縮し、アプローチを躊躇してしまいました。この失敗に対し、私たちは「どのような場合に注意が必要か」というリスク管理法を明文化すると共に、複数アプローチの成功事例を共有する勉強会を実施しました。こうした取り組みを通じて、チーム全体でパーソナライズの精度と実行力を高めています。


エンタープライズIS経験を活かすキャリアパス

エンタープライズIS(BDR)の役割と市場価値
インサイドセールスには、SDRとBDRという代表的な役割がありますが、これらはしばしば混同されます。まず、その違いを明確にしておきましょう。

  • SDR(Sales Development Representative)
    • 主なミッションはリード創出です。インバウンドリードへの対応や、アウトバウンドコール・メールによるアポイント獲得を担います。
  • BDR(Business Development Representative)
    • 主にエンタープライズ(大手企業)や複雑な案件を対象とします。顧客の課題を深く理解し、アカウントプランに基づいた戦略的なアプローチを行うことが求められます。本記事で解説する「エンタープライズインサイドセールス」は、このBDRに近い役割を指します。

では、なぜエンタープライズインサイドセールスの経験が、キャリアアップにおいて大きな価値を持つのでしょうか。それは、営業マネージャーレベルの高度なスキルが身につくからです。

  • 市場・顧客分析スキル: 担当業界の市場規模や自社の受注率を把握し、「どの企業が重要アカウントか」を見極める高い解像度。
  • 戦略立案・実行スキル: アカウントプランの策定やKPI設計を行い、チームで議論を深めながら実行する力。


戦略的スキルが拓く、3つのキャリア方向性
これらの経験は、多様なキャリアパスへの扉を開きます。

  • 営業・マネジメント職へ: 戦略的な視点を持ったフィールドセールスや、チームを率いるマネージャーへの道が開けます。
  • 専門職・企画職へ: 特定の業界への深い理解を活かし、業界責任者、テリトリーマネージャー、あるいはエンタープライズ向けの事業開発担当者といったキャリアも考えられます。
  • マーケティング・事業運営へ: マーケティングチームと連携し、予算の最適化を提案したり、セールステックの選定を通じて事業運営のコスト改善に貢献したりすることも可能です。


市場価値を高め続けるための、個人の取り組み
上記のキャリアパスを実現するためには、「インサイドセールス」という職務の枠に留まらない、個人の継続的な取り組みが重要になります。

  • 情報発信とコミュニティ形成: SNSやnoteなどを活用して専門知識を発信し、個人の信頼性を高めます。また、プライベートセミナーや共催イベントを企画・実行し、活動の幅を広げます。
  • テクノロジーの活用: CRMやMAはもちろん、生成AI、インテントデータ、顧問サービスなど、最新のセールステックを駆使し、業務効率と成果を最大化する先導者になることが求められます。


変化する市場と、次なる挑戦
こうした動きは、SaaS企業の増加に伴う人材獲得競争や、従来の「THE MODEL」の組織運営における育成課題(ジュニア層の離職など)といった、業界の変化とも関連しています。
変化に対応し、価値を提供し続けるためには、新たな手法への挑戦が不可欠です。その一つとして、パートナーセールスとの連携を強化し、パートナーセールスとのコラボレーションにもチャレンジしていくのも面白いと考えています。
このように、エンタープライズインサイドセールスは、戦略的思考、市場理解、そして変化への対応力を武器に、多様なキャリアを築ける、非常に市場価値の高い職種なのです。


まとめ:行動こそが、未来を拓く

インサイドセールスにおいて最も重要なのは「考えるだけでなく、実際に行動すること」です。成功する人は「仮説→行動→改善」のサイクルを回し続けています。

  • 仮説を立てる→顧客の課題を想定し、最適なアプローチを考える。
  • 行動する→実際にメールや電話で検証し、データを取る。
  • 振り返る→うまくいった点・課題点を分析し、改善を続ける。


エンタープライズインサイドセールスは、決して楽な仕事ではありませんが、努力し、行動し続けた分だけ、必ず成果として返ってくる仕事です。ぜひ、本記事で紹介した「Amazonのメカニズム」を意識しながら、日々の活動の中で継続的に改善を積み重ね、圧倒的な成果を生み出していきましょう。

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