はじめに
商談数はKPI以上に獲得できているが、案件化に至らず受注につながらないとインサイドセールス組織の介在価値を発揮できているとは言えません。弊社で実施した「 インサイドセールスの取り組み状況に関するアンケート」* でも、インサイドセールス組織の目的として最も多く回答に上がったのは「受注数の増加」でした。
受注へ転換しやすい商談を獲得するためにすべきこととして、組織としてはターゲティング、アプローチフローの構築、適切なKPIの設計が挙げられます。個人にフォーカスするならば、自社サービスのニーズがある顧客から適切なタイミングで商談機会を獲得するために何ができるか考えましょう。
できることの1つに、徹底した顧客理解があります。今回は顧客理解に着目して、「なぜ顧客理解が必要なのか」「顧客理解のために押さえるべき3つの要素」について考えていきたいと思います。
* 2023年11月17日~11月21日実施。有効回答数513名。
顧客理解を怠ると良好な関係は構築できない
まず顧客理解が不足している場合に起こりうる問題を3つ挙げます。
・ヒアリングの質が下がる
顧客について事前に把握できている情報がないので、状況質問(SPIN話法におけるS)や直接的な問題提起(「お困りごとはありませんか?」という答えづらいもの)を投げかけてしまい、話が発展せず結果としてお断りが増えてしまいます。
アプローチ例
NG:「◯◯様は△△領域のご担当者様でしょうか?」
OK:「◯◯様は△△領域のご担当者様だとインタビュー記事で拝見したのですが、今もこちらの領域を管掌されていますか?」
・認識のズレが発生する
顧客の状況に合わせたトークを展開できないので関係構築ができません。結果として、キープインタッチ* を続けても効果が半減してしまいます。
* 見込み顧客との関係を維持するため、定期的にコンタクトを取り信頼関係を築くこと。
アプローチ例
NG:「次のご連絡ですが、いつ頃がご都合よろしいでしょうか?」
OK:「2月前半に予算会議とのことでしたら、本日中に比較表をお送りします。ご覧いただいてまた来週頭にお話を伺わせてください。」
・仮説の精度が下がる
顧客の解像度が低いので一般的な仮説にとどまり、相手の興味を引くものになりません。仮説は顧客別にカスタマイズしてこそ意味を発揮します。
アプローチ例
NG:「人材業界では冬頃がお忙しい時期だと思うのですが貴社もそうですか?」
OK:「◯◯様の部署では中途採用に力をいれていらっしゃるので、来月あたりが特にお忙しく△△といった課題がおありになるのではと推察しているのですが、◯◯様はどのように感じていらっしゃいますか?」
このように顧客理解が不足していると顧客向けにカスタマイズした会話ができないので、良好な関係を構築するためのコミュニケーションには至らない可能性が高いです。とはいえ全ての情報を拾った上でアプローチしようとすることは効率的ではないので、事前準備とアプローチ時のヒアリングはポイントを押さえて実施することをおすすめします。
顧客理解のために押さえるべき3つの要素
顧客理解のために必要な要素は「ロール(役職/役割/立場)」「意思決定プロセス」「業務内容」の3つです。業界動向などの各企業共通している情報はChatGPTやマイクロソフト社のCopilotなど、AIを活用することで効率的に情報収集ができますが、個社ごとの独自情報はインサイドセールスの力で集める必要があります。この共通、独自情報のどちらもを押さえられると、顧客ごとに最適化した訴求の仕方がある程度見えてきます。
ロール(役割/役職/立場)
社内でのロールによって顧客の求める情報は異なります。正確なロールが分かると顧客の抱える問題や価値を感じるポイントが推測しやすくなるので、Web上に落ちている情報を集めつつ、実態を特定するためにインサイドセールスからもアプローチを行いましょう。
「売り手」であるインサイドセールス視点で考えてしまうと、どうしてもサービス説明に終止したアプローチ内容になってしまいます。顧客のロールに合わせて経営層であれば「買い手」、現場で指揮をしたり実際に手を動かす担当者であれば「使い手」の目線を持てると、どのような情報を提供すると役に立てるかが分かってきます。
買い手と使い手では、同じ質問を投げかけられても返ってくる答えが違います。また、使い手がサービスに価値を感じていても買い手が決裁権を持っているケースが殆どですので、使い手が買い手に上申するために必要な情報をインサイドセールスが集めて適宜共有する必要もあります。このように自分がどう立ち回るかを見極めるためにも顧客のロールを知ることは非常に重要です。決裁者ではないからといって顧客へのアプローチを止めてしまうことがあると思うのですが、その方が推進力のある使い手だった場合は買い手へある程度裁量を任されている可能性があり、使い手のプッシュがないと買い手が動かないということも有りえます。ステークホルダーの見極めをするためにも、ロールを特定しにいくことは重要なアプローチです。
意思決定プロセス
意思決定プロセスを知ることができるとどの時期に何が必要なのかが見えてくるため、アプローチタイミングや内容を顧客にとって最適化することができます。各プロセスに応じて適切なアプローチをすることで、顧客の検討フェーズを次に進めることが可能です。逆に言えばこちらの都合やタイミングでアプローチをしても、相手のプロセスに合致していなければフェーズは進まないどころか顧客体験を損ねる結果にしかなりません。「急に連絡が取れなくなった」というアプローチの中断理由や失注理由は、これに起因することも多いです。
この図は一般的な顧客の購買行動をプロセスごとに表したもので、これを自身のターゲット業界に合わせて作り替えたものをフォーマット化することで、各顧客ごとにアプローチ設計までできると最適化した動きが取れると思います。企業規模(SMB〜Ent)に応じて、意思決定の各プロセスに関わるステークホルダーが変化しますので、先ほどの「ロール(役割/役職/立場)」に合わせて意思決定に関与するステークホルダーを把握しておくことが重要です。ABMなどターゲットアカウント獲得のための戦略を取っている方には特におすすめです。
業務内容
具体的な業務内容や年間スケジュールを把握することで時期に応じて起こりうる課題を仮説立てることができ、状況に合わせたご提案が可能になります。この情報は顧客と接触できずとも収集できるものもありますが、闇雲に探すとそれこそ膨大な時間がかかってしまいます。どこから何の情報を入手するのか目的と合わせて明確にしておくことで、より効率的に事前準備を進められるようにしましょう。
これらの情報の中でも顧客理解を深めるのに最適なのが事例記事です。ターゲット企業が事例記事を何件も公開している場合は、事例の内容を「顧客の現状・問題・導入後の効果」の3点で整理して読んでみてください。もし自社事例が少ない場合は、競合他社の事例を整理するのも効果的です。事例の対象となっている企業の特徴(業界・業種・部門・企業規模)の内容は、類似した特徴の企業に応用できます。顧客の理解も深まりますし、仮説の精度も上がります。
一方で、SDRであれば細かい情報を拾うよりもアプローチスピードを優先した方がいい場合もあります。しかし弊社ではインバウンドリードへの初速アプローチ時間はその後の商談化率の変数にならない(5分以内でも1時間以内のアプローチでも商談化率がほぼ変わらない)というデータが出たので、初速はそこまで気にせずに事前情報をある程度準備してアプローチしようという方針に切り替えたこともあります。自社の組織や状況に合わせて、どこまで事前情報を集めるか調整しましょう。
徹底した顧客理解が受注につながる顧客体験を生む
電話やメールの頻度が適切であることが大前提ですが、顧客理解に基づいたアプローチは相手に迷惑に感じられる可能性が低いです。相手の状況を適切に推測しておりそれに基づいたご提案であれば、参考になる情報もご提供できます。徹底した顧客理解は良好な関係構築につながり、その中で商談に至るタイミングがあれば、受注への確度が高まっていると言えるでしょう。インサイドセールスとして受注まで見据えたアプローチ設計の第一歩として、まずは顧客理解に取り組んでみてください。
このようなインサイドセールスのスキルアップに役立つプレイヤー向けの合同研修を2024年5月9日(木)、28日(火)に開催予定です。ご興味があればこちらより詳細資料をご覧ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。インサイドセールス代行サービス「BALES」に関するお問い合わせはこちらから、お待ちしております。