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【連続対談】AI×インサイドセールスの未来 第二回「メールの未来はどう変わるのか」

InsideSalesPlus 編集部2023/11/17
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様々な領域でAIの活用が進んだ2023年ですが、セールス&マーケティング領域でもその進化は目覚ましく、購買環境そのものが大きく変化しようとしています。購買環境が変わればインサイドセールスも変わる、その前提はもちろんですが実際にどう変わっていくのか、売り手と買い手の関係性は?そんな問題を有識者のインタビューによって深掘りしていこうという企画をスタートさせました。第二回は『現場のプロが教える!BtoBマーケティングの基礎知識』の中でメールマーケティングを担当するなど、メールといえばこの方、株式会社WACUL 執行役員CMOの安藤さんにお話をお伺いしました。

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株式会社WACUL 執行役員CMO 安藤 健作(以下、安藤氏)
早稲田大学卒業後、丸井を経て、2006年にラクスに入社。16年よりメールマーケティングサービス「配配メール」の事業責任者となる。メールマーケティングのエバンジェリストとして「現場のプロが教える!BtoBマーケティングの基礎知識」(マイナビ出版/共著)を出版。22年7月よりWACULに転職し、現職。


セールスメールは変わる、マーケティングメールは軽微な影響


-安藤さんは、マーケティングの中でも特にメールマーケティングの分野に携わってこられましたが、今回のChatGPTに代表されるAIの進化についてどうお考えですか?


安藤氏
「まず、大きな変化だと捉えています。第一回で茂野さんが言及されていた通り、これまでとは比較にならないほど大きな変化が起こっているなと感じています。しかしそれはセールスメールであって、マーケティングメールにはそこまで大きな影響はないのではと考えています。

セールスメールとは、主にセールス担当やインサイドセールスがお客様一人ひとりに向けてお送りするメールのことで、CxOレター(CxOメール)や商談時のやりとりがそれにあたります。対してマーケティングメールとは、メルマガなどがわかりやすいですが、セミナーや新機能の案内などといった多くの方に一度に届くメールをイメージしてもらうとわかりやすいです。」

-なぜその違いが生まれるのでしょうか?


安藤氏
「セールスメールはこれまで体系化するのが難しい、属人的になってしまうなど、ルールを作って実行することが難しいと言われてきました。ですからどんなにそのメソッドが公開されても、結局は体得しきれずに伝播していかなかったという歴史があります。

一方でマーケティングメールはすでに多くの型が存在し、現在ではBtoCのメルマガなどはほぼそのテンプレートによって作成、送信されています。対象数が多く、サンプルとなるデータが集まりやすいという点、そして比較的安価で購買までの意思決定がシンプルという点もポイントです。」

-セールスメールでの活用は進み、マーケティングメールでの活用は進まないと?


安藤氏
「一概には言えません。セールスメールでの活用にはそのツールを使いこなせる技術を持った人が必要になりますし、しばらくは試行錯誤を繰り返すことになります。そこまでの投資をすべての企業ができるとも言い切れませんし、売上となれば効果が測れるのはさらに先の話ですから、相当な覚悟を持って投資する意思決定がないと効果がでる前に諦められてしまいます。

また、マーケティングメールについてはリソース不足の解消という点で大いに検討が進むと思います。現在はサブタスクとしてメルマガ担当をしているという方も多く、少ない時間の中でタイトルやコンテンツ、校正などを行っています。増員するにはコストが惜しいという企業も、数千円から数万円で導入できるとなれば検討は進むと思います。 」

イノベーションのタイミングはツールベンダーが実装したとき


-ここまでのお話だとやはり大きな変化は起こらないのではと思うのですが、安藤さんの見解はいかがでしょうか?


安藤氏
「企業単位で導入されている間は、イノベーションと言えるほどの変化は起こらないと思います。しかし、メールの配信ツールを提供しているベンダーが機能として実装するとものすごい変化が起こると考えています。

現在のChatGPTは世の中に公開されているデータを元に思考し回答してくれますが、メールマーケティングにおいては正確なデータは各社の中、もしくは配信ツールのベンダーの中にしかありません。ですから、現状で個社で利用しても正しい回答は得られないのです。

それがもしツールベンダーが利用するとなると、膨大なデータの中から開封率の高い時間、効果的なタイトル、効果的な配置、コンテンツの内容など、これまでとは比較にならない精度で答えを教えてくれることになります。」

-そうなるとユーザーの仕事はどう変化していきますか?また、それはセールスメールにも同様の変化を促しますか?


安藤氏
「ユーザーは作業から開放され、より戦略的な仕事やお客様を知ることに多くの時間を割くことになると思います。現地でのインタビューや、そこから得たインサイトをベースとした顧客体験の全体設計など、これまでのようなタイトル、送信時間の検討、内容やレイアウトなどはAIが多くの部分を代替してくれるようになるはずです。

セールスメールでも同様です。同じような企業規模、業種や業態などの複数のデータから最適な内容やタイミングをレコメンドしてくれるようになるかもしれません。また、そこに各社のCRM、その他ツールによるインテントデータがあればより精度の高いアプローチが可能になると思います。

個社での活用を促進する、インサイドセールスの業務を効率化する、顧客体験を良くするということを考えるのであれば、精度の高いデータを取得、維持、更新し続けることが重要です。いままでのようにデータは綺麗な方が良い、という次元の話では無くなります。」

AIの活用は購買体験を毀損するか、良いものにするか


-例えば開封率の高い時間帯が判明したとして、そこに多くのベンダーが同時に送るとなれば、それはお客様の購買体験を毀損しませんか?


安藤氏
「可能性は否定しません。しかし、それはある意味いまでも起こっていることだと思っていて、その中で本質的に必要な情報を提供し、関係性を構築しながら独自性を発揮しているベンダーが残っているという認識です。

つまり、何も考えずにAIに任せ、全体設計をおざなりにし、「とにかく送信すれば良い」と考えている企業は自然に淘汰されることになります。」

-メールの送信量が増加することで、オプトアウト(メルマガの登録解除)についてはどんな影響が出るとお考えですか?


安藤氏
「これまで以上に影響が大きくなると考えています。理由は大きく2つあって、ひとつはメールの作成=送信が容易になることで、送信量が増えます。送信量(頻度)が増えれば、もしオプトアウト率が変化しなかったとしても、オプトアウト量は増えることになります。

そしてオプトアウトが増えることを嫌がる企業がその導線を複雑にする、見えにくくするということが起こり得ますが、これが悪手です。現在も問題視されていますが、オプトアウトさせにくくすることはその企業に対する信頼を毀損します。

現在はオプトアウトしなくてもメーラー自体(例えばGmail)にブロック機能があり、解除する必要がありません。それどころかこのブロックが蓄積すると、Googleからドメイン全体が迷惑メール認定される可能性があります。つまり、どこの誰にメールを送ろうと迷惑メール扱いになるかもしれない、ということです。」

-なるほど。まとめていくとテクノロジーの進化は正しい行いは助けるが、そうではない動きを察知して適切に対処できるようになっているということですね?


安藤氏
「その通りだと思います。ですからテクノロジーは正しく使うことが最終的に自社の利益になりますし、そういった使い方をする人を企業は求めると思います。ChatGPTなどのAIは効率重視で提案してくると思います。

例えば「メールの件名にRe:と入れることですでにやりとりのある人からのメールという偽装ができるので開封率が上がります」という提案をしてくるかもしれません。そこで「これは意味がないことだ」と判断できる状態、組織であることがとても大切になってきます。」

AI時代に人間はなにをするのか


-メルマガの運用、セールスメールの作成をAIが代替した場合、人間はなにをすれば良いのでしょうか?また、どんなキャリアを目指すべきなのでしょうか?


安藤氏
「正直、ChatGPTの力には驚いています。先日も自社のWebサイトに使われているキーワードを入力して、セールスコピーを使ってもらったのですが、ものすごく良いものが出来上がってきました。このスピードと要約力に勝つのは正直厳しいと感じ、この領域でもう勝負し続けるのはあまり筋が良くないと思います。

一方で、先日セレブリックス社のメルマガのタイトルに『聞いてなーーーーーい!』という斬新なものがあり、興味を引かれて開封したことをTwitterでつぶやくと共感してくださる方が多くいらっしゃいました。さすがにこれをChatGPTが推奨してくるのは少し先だと思いますし、ポイントはその表現が受け入れられるブランドやコミュニケーションがあって成立しているという点だと思います。

こういった事例からもわかるように、AIの活用は点ではなく線になることでその効果が倍増するということです。ですから人間はそこに注力をすることが、2023年現在は最適解だと考えます。」

-実行者から設計者に。これはインサイドセールスにも言えることだと思いますが、良い設計者になるために必要なことはどんなことでしょうか?


安藤氏
「配配メールの責任者時代に毎日やっていたことなのですが、サポート宛にきたメールに毎日目を通していると成功している企業には共通点がありました。それは『メールは手段であり、目的は売上の成長』という意識が高いことでした。

ですから短期的なコンバージョンやMQLの数ではなく、長期的な関係構築や信頼の醸成、最終的な売上利益とお客様の成功。これをどうすれば実現できるのか、そのためにメールというチャネルはどんな貢献ができるのかを考え抜くことだと思います。

これはどんな職種、職能でも同じことでインサイドセールスも例外ではありません。テクノロジーによって作業から開放されることができるのであれば、その分をより長期的な視点の仕事に分配していくことで、これからの時代に対応できる人間になれると思います。」

最後に


-たくさんのお話をありがとうございました。最後になにか読者の方へメッセージがあればお願いします。


安藤氏
「メールはまだまだ無くならないと思います。商談になればDSR(デジタルセールスルーム)のようなツールが、契約したあとはSlackなどのチャットツールでつながることができますが、興味や検討段階ではやはりメールでのコミュニケーションが大部分です。

ですからメールの練度を上げ、重要視し、効率化していくことは重要ですし、そこにテクノロジーは必須です。しかし、ひとつ意識するポイントを間違えれば、ブランドの毀損やオプトアウト、そしてドメインの価値そのものを下げてしまう可能性もあるということをしっかり認識することがなによりも大切です。

一方で、変化の時代はチャンスでもあります。新しい分野、手法へのチャレンジは得るものも大きく、事業や企業成長を大きく推進するものでもあります。ですからリスクやその可能性を正しく理解することにも、同時に取り組んでいただきたいと思います。」


最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。今回はインサイドセールスも活用するメールについて安藤さんにお話をお伺いしました。次回はまた別の切り口でインタビューを続けて参りますので、どうぞお楽しみに。

また、文中にもありましたがマーケティングの全体設計がとても重要な局面にきていますが、その実現難易度が高いというご相談も頂戴しております。安藤さんの所属するWACULさんではそのあたりのご相談も受けていらっしゃるとのことですので、ご希望の方はこちらからお問い合わせください。

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